赤ちゃんの肌トラブルには、塗り薬の「ステロイド」を処方されることがあります。ステロイドと聞くと、「刺激が強い」といったイメージが先行し、抵抗を覚える人もいるかもしれません。
そこで今回は、赤ちゃんにステロイドが処方されたときに不安なく使えるよう、塗り方や塗るときの注意点、副作用などをご説明します。
ステロイドとは?
人間の体内では、ストレスなどさまざまな影響を受けて「副腎皮質ホルモン」というホルモンが分泌され、発熱などのストレスや体内の炎症を抑制したり、免疫バランスを保ってくれたりしています。
「ステロイド」と呼ばれる薬には、化学的に合成して作られた副腎皮質ホルモンが含まれており、皮膚の炎症やかゆみを抑える効果を発揮します。
ステロイドは塗り薬ばかりではなく、内服薬や点眼薬、点鼻薬、吸入薬など様々なタイプがあります。
赤ちゃんにステロイドが処方されるのは?
赤ちゃんにステロイドが処方されるのは、肌トラブルが起きた場合が多いです。
特に、以下のような湿疹による炎症が悪化するとステロイドが処方されることも珍しくありません。
処方されるステロイドは、赤ちゃんのデリケートな皮膚にあわせた弱めで刺激の少ないものになるので、安心してくださいね。
医師の指示通りに使うことで、かゆみや炎症のもととなる部分を抑えてくれますよ。
乳児湿疹
赤ちゃんにできる湿疹を総称して「乳児湿疹」といいます。おでこや頬がカサカサ乾燥するタイプや、髪の生えぎわや頭皮がベタベタ・ジュクジュクするタイプなど、湿疹の状態は子どもによってさまざまです。
アトピー性皮膚炎
皮膚の乾燥とかゆみのある湿疹が慢性的に続く、アレルギー性の皮膚の病気です。発症する年齢は早くて生後2~3ヶ月頃で、月齢がまだ低い場合はいったん「乳児湿疹」と診断され、症状が1〜2ヶ月続いた場合、「アトピー性皮膚炎」と診断されます(※1)。
アトピー性皮膚炎で湿疹を発症すると、肌がただれてジュクジュクしたり、皮膚が硬くゴワゴワしたりしてきます。いずれの場合もかゆみがあり、赤ちゃんが無意識にかきむしってしまうことも。
アトピー性皮膚炎やアトピー性の湿疹と診断されると、保湿薬などとあわせてステロイド外用薬が処方されることが多いです。
赤ちゃんのステロイドの使い方や塗り方は?
ステロイドは、ほかの薬と同様、医師の指示通りに使いましょう。一般的には、お風呂に入って汚れをしっかり落とした後、水気を拭きとり、ステロイドを塗ります。
乳児湿疹やアトピー性皮膚炎では肌が乾燥しやすく、それによって炎症が悪化する恐れもあるため、ステロイドの前に保湿薬や保湿クリームを塗るように指示を受けることもあります。
塗る量は、大人の手のひら2枚の広さの患部に対して、軟膏タイプなら人差し指の第一関節の長さぐらい、ローションタイプなら一円玉大の量が目安です。
顔以外の湿疹ができているところは、皮膚が傷ついてデコボコしているため、ステロイドを薄く塗りこむよりも、厚めに塗るのがポイントです。
ただし、塗り方や塗る量については症状や子どもの年齢などによっても異なります。詳しくは、医師の指示に従うようにしましょう。
赤ちゃんにステロイドを使うと副作用はある?
「ステロイドは副作用が怖い」と思っている人も多いかもしれませんが、乳児湿疹やアトピー性皮膚炎など、肌トラブルが起きたときに使う塗り薬であれば、全身に及ぶような大きな影響はありません。
しかし、次のような副作用が現れることもあるので、理解したうえで医師の指示通りに使用しましょう。
とびひなどの細菌感染が起こりやすくなる
ステロイド剤は、肌の炎症を抑える一方で、免疫を抑える作用もあります。
そのため、伝染性膿痂疹(とびひ)など皮膚の細菌性感染症が起きやすくなる恐れがあります(※1)。とびひは特に汗をかきやすい夏に多い感染症で、皮膚が赤くなったり、黄色い膿が出たりするのが特徴です。
このような副作用が出たら、早めに医師に相談して抗生物質を処方してもらうなど、対処をしてもらいましょう。
すぐに変化に気づけるよう、赤ちゃんの肌の状態を注意深くチェックしてあげてくださいね。
皮膚が薄くなり、血管が目立つようになる
ステロイドを長期間にわたって使い続けると、肌が薄くなり、血管が目立ち、皮膚が黒ずむこともあります。(※1)。
しかし、赤ちゃんにステロイドを使う場合は、短期間で一気に炎症を抑えるのが基本です。医師の指示に従って正しく使っていれば、心配はありませんよ。
顔がほてり、乾燥する
顔に長期間ステロイドを使い続けた結果、肌が赤くほてってカサカサと乾燥し、ニキビのような湿疹が現れる「酒さ様皮膚炎」が起こることもあります(※1)。
酒さ様皮膚炎はステロイドを中止すると、時間とともによくなることが多いです。
赤ちゃんにステロイドを使うときの注意点は?
赤ちゃんにステロイドを使うときは、必要以上の長期間は使わないようにしましょう。医師から指示された期間はしっかりとステロイドを使えば、目安として数日程度で効果が現れます。
もし正しく使用して1週間たっても肌の状態が改善されない場合は、医師の診察を受けましょう。
「ステロイドの副作用が怖くてなかなか使えない」という人もいるかもしれません。しかし、医師の指示を守ってステロイドを適切に使い、炎症を抑えることが、赤ちゃんの肌を守ることにつながります。
短期間であれば副作用が現れにくく、肌トラブルの悪化も最小限にできます。
ただし、早く治したいからといって多めにステロイドを塗るのはよくありません。炎症が治まらないばかりか、かえって肌の調子を悪くしてしまう恐れもあるため、注意してくださいね。
ステロイドの副作用を恐れすぎないで
赤ちゃんを持つパパやママにとって、ステロイドの副作用は気になるかもしれませんね。しかし、適切に使えば短期間で症状を緩和することができます。
ステロイドだけでなく薬は症状にあわせて適切に使うことが大切です。医師は副作用も考慮したうえで処方しているので、その指示に従って正しく使い、赤ちゃんの肌を守ってあげてくださいね。
監修医師:小児科 武井 智昭
日本小児科学会専門医。2002年、慶応義塾大学医学部卒。神奈川県内の病院・クリニックで小児科医としての経験を積み、現在は神奈川県大和市の高座渋谷つばさクリニックに院長として勤務。内科・小児科・アレルギー科を担当しています。感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として診療を行っています。
※1 日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」