「ハイリスク妊娠」という言葉を耳にして「自分も当てはまるのではないか」と不安になっている人もいるかもしれません。具体的にはどのようなリスクがあるのでしょうか。
今回はハイリスク妊娠について、なりやすい要因や、母体や胎児への影響、気をつけておきたいことなどをご説明します。
ハイリスク妊娠とは?増えているの?
日本産科婦人科学会の定義によると、「母児のいずれか、または両者に重大な予後が予想される妊娠」を「ハイリスク妊娠」といいます(※1)。
妊娠中にどれくらいのリスクがあるかは、妊婦健診での問診内容や、現在の母子の状態と経過、合併症などによって判断されます。
近年では、晩婚化などの影響で女性の出産年齢が高くなってきています。また、体外受精などの生殖補助医療技術が進歩してきていることで、高齢の女性における妊娠・出産の確率が上がっています。
一般的に、年齢を重ねると合併症などの妊娠・出産におけるリスクは高くなります。そのため、今後「ハイリスク妊娠」と認識されるケースはますます多くなっていくと考えられています(※2)。
ハイリスク妊娠の項目は?母体と胎児への影響は?
厚生労働省厚生労働科学研究班が作成した「妊娠リスクスコア」は、ハイリスク妊娠を判別する指標として使われています。
妊娠リスクスコアでは、主に下記の項目について点数化し、合計点数が4点以上のときは「ハイリスク妊娠」と判断されます(※2~4)。
年齢
妊婦さんの年齢が15歳以下、もしくは35歳以上の場合、妊娠リスクと判断されます。
15歳以下で妊娠すると体が十分に発達していないため、早産になったり、胎児が低体重で生まれたりする可能性が高くなります。
35歳以上の高齢妊娠の場合、流産・早産や胎児の染色体異常のほか、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病、常位胎盤早期剥離、前置胎盤などの合併症が起きるリスクが高まります。
身長・体重
身長が150cm未満の妊婦さんは、胎児の頭の大きさと比べて骨盤が狭いことが多いので、難産になるリスクがあります。
また、妊娠前から肥満傾向にあったり、妊娠中に体重が増えすぎてしまったりすると、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症が起きやすく、微弱陣痛になるリスクも高くなります。
逆に痩せすぎている場合、「ハイリスク妊娠」とまでは判断されなくとも、生まれてくる赤ちゃんが低出生体重児となる恐れがあります。
既往歴
妊婦さんが過去に下記のような病気にかかったことがある、または治療中である場合、母体や胎児に合併症を引き起こしたり、胎児発育不全などにつながったりする恐れがあるので、適切な経過観察が必要となります。
- 高血圧
- 糖尿病
- 心臓疾患
- 甲状腺疾患
- 気管支喘息
- 血液疾患
- HIV陽性
ほかにも、風疹や水痘(水ぼうそう)など、お腹の赤ちゃんに感染する恐れがある病気にこれまでかかったことがなく、予防接種をしていない場合、妊娠リスクとして判断されます。
喫煙
煙草に含まれる有害物質は、低酸素症や血管収縮を引き起こします。
その影響で、早産リスクのほか、常位胎盤早期剥離や前置胎盤などによる早産、胎児の先天異常、胎児発育不全を引き起こすリスクが高くなります。
飲酒
妊娠中のアルコール摂取は、「胎児性アルコール症候群」を引き起こすリスクがあります。
主な症状として、胎児の発達の遅れ、中枢神経系の異常、小頭症など容姿への影響などが挙げられます。
婦人科系の既往歴・過去の妊娠トラブル
一例として、下記のような婦人科系の病気や過去の妊娠トラブルを経験したことがある場合、今回の妊娠でも慎重に経過観察することになります。
- 子宮筋腫
- 子宮手術歴(帝王切開、子宮筋腫摘出術、流産手術、中絶手術など)
- 妊娠高血圧症候群
- 常位胎盤早期剥離
- 反復流産
- 早産
- 死産
- 新生児死亡
現在の妊娠状況
羊水過多・羊水過少
羊水が過剰にある「羊水過多」の場合、前期破水や切迫流産などのリスクが高まります。また、胎児や胎盤に異常がないかどうかの検査も必要です。
逆に、羊水が少なすぎる「羊水過少」は、胎児発育不全や胎児の腎臓の病気が原因となっていることがあります。
どちらも、子宮の大きさが妊娠期間に相当していない場合に疑われたり、診察時の超音波検査によって医師から指摘されたりすることがあります。
多胎妊娠
双子以上の多胎妊娠の場合、赤ちゃんが1人だけの単胎妊娠と比べて、流産・早産リスクが高くなります。
また、母体貧血、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、弛緩出血などの合併症のほか、胎児発育不全を引き起こす恐れもあるので、ハイリスク妊娠として適切な対応をしていきます。
ハイリスク妊娠の場合、気をつけたいことは?
それでは、「ハイリスク妊娠の可能性がある」、もしくは「ハイリスク妊娠である」と判断された場合、どのようなことに留意すればよいのでしょうか?
リスクを把握しておく
ハイリスク妊娠と判断されたからといって不安になりすぎる必要はありませんが、ある程度リスクがあることは自覚しておきましょう。
そのうえで、妊娠中に気になる体調の変化などがあれば、すぐにかかりつけの産婦人科医に相談してくださいね。
適切な経過観察や治療を受ける
妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病など、妊娠中のリスクとなる疾患がある場合、医師の説明をよく聞いたうえでしっかりと経過観察や治療を受けましょう。
仕事や育児で忙しい人もいるとは思いますが、早期に体調や症状を改善することが安全なお産につながりますよ。
ハイリスク妊娠に対応した病院を探す
ハイリスク妊娠と判断された場合には、医師と相談のうえ、母体と新生児の「ハイリスク妊娠管理」ができる病院を紹介されることもあります。
特に、胎児への影響が考えられる場合には「NICU(新生児集中治療管理室)」のある総合病院における妊婦健診や分娩が必要となります。
いつでも入院できる準備をしておく
ハイリスク妊娠と判断された妊婦さんの場合、「いつ入院してもいいように準備しておいてください」と医師から言われることもあります。
妊娠初期の段階から、入院に必要な持ち物をまとめておいたり、すでに子どもがいる場合には保育園や幼稚園の送り迎えについて家族と話し合っておいたりと、入院準備を万全にしておきたいですね。
場合によっては急に入院が必要になることもあるので、そのときにすぐに治療を行えるよう、準備をしておくことが重要です。
ハイリスク妊娠と判断されても、焦らないで
「ハイリスク妊娠」とは、母子ともに健康で安全なお産となるように、医師が適切な処置を行うための判断基準なので、あまり心配しすぎないで大丈夫ですよ。
ただし、ハイリスク妊娠と判断された場合、体調管理に気をつけたり、しっかり経過観察や治療を受けたりすることが大切です。医師や助産師と相談しながら、なるべく母体と胎児にリスクの少ないお産になるよう、準備を整えていってくださいね。
監修医師:産婦人科医 間瀬徳光
2005年 山梨医科大学(現 山梨大学)医学部卒。板橋中央総合病院、沖縄県立中部病院などを経て、現在は医療法人工藤医院院長。産婦人科専門医、周産期専門医として、産科・婦人科のいずれも幅広く診療を行っている。IBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)として、母乳育児のサポートにも力を注いでいる。
※1 日本産科婦人科学会『産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第3版』
※2 メジカルビュー社『プリンシプル 産科婦人科学2 産科編』p.208-210
※3 日本産科婦人科学会「ハイリスク妊婦の評価と周産期医療システム」
※4 株式会社メディックメディア『病気がみえるvol.10 産科 第4版』p.78