「ダウン症」という言葉を一度は聞いたことがありますよね。染色体の変異によって起こる先天性の病気のひとつですが、具体的にどんな疾患なのかは詳しく知らない人も多いのではないでしょうか。
今回は、ダウン症の頻度や原因、症状、治療法の有無、支援制度などについてご紹介します。
ダウン症とは?
ダウン症は、21番目の染色体が通常より1本多く存在することによって起こる先天的な疾患です。正式には「ダウン症候群」といい、最も頻度が高い染色体異常のひとつです。
ダウン症には、「21トリソミー型」「転座型」「モザイク型」の3種類があります。約95%が21トリソミー型のため、ダウン症のことを21トリソミーと呼ぶこともあります(※1)。
21トリソミー型
染色体は通常2対で23組(46本)ありますが、21トリソミーの場合、21番目の染色体が1本多い47本になっています(※1)。
母親と父親の染色体は、ほとんどのケースで正常です。
転座型
転座型はダウン症の約3%で、染色体は正常の46本であるものの、21番目の染色体の過剰な1本が他の染色体にくっついています(※1)。
母親か父親のどちらかが転座染色体を持っていて、遺伝が関係することも特徴です。
モザイク型
モザイク型は非常に稀で、正常な染色体46本の細胞と、過剰な21番目の染色体を含む47本の細胞が混ざり合っています(※1)。
21トリソミー型と同じで、母親と父親の染色体は、ほとんどのケースで正常です。
ダウン症が起こる頻度は?
ダウン症の子どもが生まれる確率は、約600〜800人に1人です(※2)。
ただし、高齢出産になるほど発症率は高くなり、母親の年齢が20歳で1,667人に1人、30歳で952人に1人であるのに対して、35歳では385人に1人、41歳では86人に1人となります(※3)。
数字だけ見ると不安になるかもしれませんが、41歳で出産しても、86人のうち85人はダウン症ではありません。
つまり、98.8%はダウン症ではないということです。高齢妊娠・出産で染色体異常が起こる確率が高まるのは事実であるものの、頻度はそれほど高くないとも考えられます。
ダウン症の原因は?
ダウン症は染色体異常によって起こりますが、何が原因で染色体異常が生じるのかは明らかになっていません。
転座型を除いて、母親・父親の染色体は正常の場合がほとんどなので、遺伝によって起こる可能性は非常に低いといえます。
母体が高齢になるほど発症しやすいことから、卵子の細胞分裂の異常や老化なども原因として考えられていますが、まだ医学的にはっきりしていないのが現状です。
ダウン症の特徴は?
ダウン症の赤ちゃんは、新生児期は、「おとなしい」「あまり泣かない」「手足の動きが少なくだらんとしている」などの特徴がみられます(※1)。
個人差はありますが、成長するにつれて次のような特徴があらわれます。
外見上の特徴(※1)
・目がつり上がっている
・顔が丸くて平坦
・鼻が短い
・耳が小さい
・口角が下を向いている
・後頭部が平ら
・手が短くて幅広い
・舌が大きい
成長・発達の特徴
体や知的・精神面の発達遅延が目立ってきます。
ダウン症のない子どもに比べると身長は低く、肥満になるリスクが高いとされていますが、個人差が大きいです(※1)。
運動機能・言語機能の発達は遅く、多動や不注意といった行動上の特性がみられることもあります。
健康面の特徴
生まれつき、目や耳、心臓、腸などに合併症を持っていることが多いです。
ダウン症の新生児の約40~50%に先天性心疾患、約60%に先天性白内障や緑内障、斜視などの眼障害がみられます(※1)。難聴が合併することも多くあります。
ダウン症の治療法はあるの?
ダウン症は染色体異常によって起こるものなので、完治させることはできません(※1)。
そのため、ダウン症そのものではなく、個々の発達の遅れや合併症の症状などに対して治療を行います。
例えば、ダウン症の子どもが社会的に自立して生活ができることを目指す「療育」を早くから行うことで、体や精神の発達遅延の治療につながることもあります。
合併症に関しては種類や症状の個人差が大きいため、治療法もさまざまです。病気によっては、生後すぐに手術をする場合や、成長してからも定期的な通院が必要となる場合もあります。
ダウン症の子どもや家族への支援制度は?
ダウン症の子どもや家族への支援は充実していて、さまざまな制度があります。
ここでは、ダウン症の子どもと家族を対象にした手当や助成金、手帳をご紹介します。
特別児童扶養手当
体や精神に障がいをもつ子ども(20歳未満)を対象に、その保護者に支給される手当です(※4)。障がいがある子どもの生活を支援していくことを目的としています。
支給額は障がいの程度によって異なり、1級は月額53,700円、2級は月額35,760円*です。なお、所得が一定額以上の場合は支給されません。
* 2023年度の金額です。物価の変動に応じて毎年4月に改定されます
障害児福祉手当
重度の障がいを持つ子ども(20歳未満)を対象に支給されます(※5)。その障がいによって普段の生活でかかる負担を減らすことを目的としています。
支給額は、月額15,220円*です。特別児童扶養手当と同様で、所得が一定額以上の場合は支給されません。
* 物価の変動に応じて毎年4月に改定されます
小児慢性特定疾病医療費助成
ダウン症の子ども(18歳未満)が合併症などで治療を受ける場合に、医療費助成を受けられます(※6,7)。18歳を過ぎても治療が必要と認められれば、20歳になるまで対象となります。
医療費助成にかかる自己負担額は所得に応じて異なり、月額0〜15,000円です(※8)。
療育手帳
知的障害があると判定された人を対象に交付される手帳です(※9)。障害福祉サービスや、各自治体や民間事業者が行っているサービスを受けることができます。
身体障害者手帳
聴覚、視覚、心臓などに障がいや疾患があると認められた場合に交付される手帳です(※9)。療育手帳のように、障害福祉サービスをはじめとする様々なサービスを受けることができます。
手当や助成金の受給にあたっては審査が必要だったり、所得制限が設けられていたりすることもあります。また手帳の交付には、判定や医師の診断書が必要となります。
申請方法や手続きに必要な書類については、住んでいる市区町村の役所の窓口に問い合わせてみてくださいね。
ダウン症の子どもの成長をサポートしよう
一口にダウン症といっても、症状や成長・発達には大きな個人差があるため、子どもの個性にあったサポートをすることが大切です。
療育相談やダウン症の子どもを持つ親の会などで話を聞いたり、支援サービスを利用したりしながら、子どもの成長を温かく見守っていけるといいですね。
監修医師:小児科 武井 智昭
日本小児科学会専門医。2002年、慶応義塾大学医学部卒。神奈川県内の病院・クリニックで小児科医としての経験を積み、現在は神奈川県大和市の高座渋谷つばさクリニックに院長として勤務。内科・小児科・アレルギー科を担当しています。感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として診療を行っています。
※1 MSDマニュアル プロフェッショナル版「 ダウン症候群(21トリソミー)」
※2 小児慢性特定疾病情報センター「ダウン(Down)症候群」
※3 日本産婦人科医会「15.超音波検査と染色体検査との関連(出生前診断について)」
※4 厚生労働省「特別児童扶養手当について」
※5 厚生労働省「障害児福祉手当について」
※6 厚生労働省「小児慢性特定疾病対策の概要」
※7 小児慢性特定疾病情報センター「疾患群別一覧」
※8 小児慢性特定疾病情報センター「小児慢性特定疾病の医療費助成に係る自己負担上限額」
※9 厚生労働省「障害者手帳について」