二人目の子を妊娠・出産すると、多くのママが経験する上の子の「赤ちゃん返り」。下の子のお世話も大変なのに、「上の子に対してどう対応したらいいの?」と悩むママも多いのではないでしょうか?
そこで今回は、赤ちゃん返りに悩んでいるママたちに対して、どんな対応をすれば良いのか臨床心理士の佐藤さんに教えてもらいました。
赤ちゃん返りの原因は?
ママが注意することはあるの?
赤ちゃん返りとは、今までできていたのに急に「できない」と言ったり、卒乳をしたのにおっぱいを欲しがったり、まるで赤ちゃんに戻ったかのような行動をとることをいいます。
子供が赤ちゃん返りをするのは、下の子を妊娠・出産したときが多いといわれていますが、それはなぜなのでしょうか?
赤ちゃん返りの原因と、子供に接するときの注意点を、臨床心理士の佐藤先生に教えてもらいました。
赤ちゃん返りの原因は?
上の子の心には、今まで通り「ママにもっと甘えたい」「ママは自分のもの、下の子にとられたくない」という気持ちと、「下の子ができてうれしい」「下の子を可愛がりたい」という、相反する気持ちがあります。
そして赤ちゃん返りをしているのは、「この複雑な気持ち(不安)をママに何とかしてほしい」からで、決してママを困らせようとしているのではないのです。
下の子ができると、上の子の心は、「ママにまだまだ甘えたい」という「甘え」の気持ちと、「下の子を可愛がりたい、しっかりしたい」という「自立」の気持ちとの間で大きく揺れます。
ある程度自分でできる年齢になったものの、この相反する気持ちは、子供にとっては大きな不安。その不安を解消するための「甘え」として、赤ちゃん返りという行動に現れるのです。
そのため下の子ができたときだけでなく、保育園や幼稚園に入るなど環境が大きく変化したときにも、赤ちゃん返りをすることがあります。
赤ちゃん返りの対応で注意することは?
赤ちゃん返りしている子供の底なしの要求に付き合うのは、とても大変なことです。
しかし赤ちゃん返りは、「困っている、どうしていいか分からない」というサイン。「お兄ちゃん(お姉ちゃん)だから」とガマンさせたり、叱って大人しくさせようとするのは逆効果。
「困っている」ことを受け止めて対応してあげましょう。
子供の心は、「甘え」と「自立」の気持ちを行ったり来たりすることで成長していきます。
そのため、赤ちゃん返りをすることは、健全な成長過程といえます。「自立」させることだけではなく、きちんと子供の「甘え」に向き合ってあげることも大切なのです。
赤ちゃん返りをしている子供への接し方は?
上の子もまだまだ子供です。「もう○歳なのに…」と思わずに、下の子と同じくらい幼いと思って接してあげることをおすすめします。
赤ちゃん返りをしている子には、以下のような接し方を意識してみてください。
● 「しっかりしなさい」などと叱らない
● 上の子のやりたいことに付き合ってあげる
● スキンシップの機会を増やす
● 上の子を優先して接してあげる
● きちんと上の子の話を聞いてあげる
とはいえ、実際赤ちゃん返りをしている上の子にどのように対応すべきか、悩むママは多いと思います。
ここからは、ninaru babyで育児漫画を連載中の、2児のママである「はしゆさん」のお悩みをご紹介します。
具体的な悩みに対して、子供がなぜその行動をとっているのか、どのように対応をしたら良いのか、臨床心理士の佐藤先生に教えてもらいました。
多くのママが思わず共感してしまう内容が盛りだくさんなので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
赤ちゃん返りエピソード1.
下の子を妊娠中に、抱っこを求められる
下の子を妊娠中、ぐずぐずのときや甘えたいときに、「抱っこ抱っこ」と上の子に抱っこをせがまれました。
正産期に入ってからは立って抱っこをしてあげましたが、こんな小さい子に我慢させて申し訳ない気持ちでした。
上の子に我慢させて申し訳ないな、という気持ちも分かります。
「抱っこ抱っこ」は、スキンシップ(安心)を求めているサイン。子供たちはママの安心が伝わるスキンシップが大好きです。でも、ママを困らせたい訳ではありません。
抱っこだけでなくても、膝の上に乗せたり、座ってハグしたり、頭をなでたり、背中をさすったり、手をつないだり、ママの無理のない範囲でたくさんスキンシップをしてあげてくださいね。
赤ちゃん返りエピソード2.
下の子の授乳中におっぱいを欲しがる
下の子が生まれてからしばらく、下の子の授乳中におっぱいをせがまれました。
上の子は1歳で断乳したので、また授乳が復活したら大変だと思い、「おっぱいは赤ちゃんのだよ」と繰り返し言い聞かせました。
でも心苦しくなって1度あげてみたら、その後は求めなくなったのですが、これでよかったのでしょうか…。
良かったのだと、上の子が教えてくれています。まだまだ「ママは自分のもの」だから、おっぱいもママも下の子にとられてしまうんじゃないかと不安になっているのだと思います。
「おっぱいは今は赤ちゃんのだけど、ママはずっと二人のママだから大丈夫よ」と声をかけて、安心させてあげてください。
赤ちゃん返りエピソード3.
下の子をぺしっと叩く
下の子がおもちゃを触っているときや、普通にしているときでもぺしっと叩いたり、どけたりします。特に下の子が生後3〜4ヶ月のころは危なくて心配でした。
毎回「叩いたらダメ。謝りなさい」と叱っています。いつも謝るときに泣き出すので、抱っこかハグをして「〇〇くんがもういいよと言ってくれてるよ」と言って仲直りします。
上の子もストレスが溜まっているのかな…と悩むのですが、どう対応したら良いのでしょうか?
兄弟の対応で悩む場面はたくさんあると思います。
上の子が下の子を叩いてしまったり、荒く扱ってしまうのは、まだ下の子にどう接していいのか分からないからだと思います。本音は仲良くしたいし、可愛がりたいと思っているので、叱られることが理解できないといったところでしょうか。
だから「叱る」よりも、「接し方を教えてあげる」対応をするといいかもしれません。「そうするよりも、こうすると、○○くんうれしいと思うよ」「こうやってあげると、○○くんも、ママもうれしいな」と教えてあげましょう。
優しくできたら、ママがしっかりほめてください。ほめられることで、「こうやるといいんだ!」と学ぶことができます。
赤ちゃん返りエピソード4.
「私も抱っこして!」と言ってくる
下の子が生後3〜4ヶ月の頃、抱っこ紐に入れているとき、上の子が「抱っこ!」と言ってきました。外出時は「お家に帰ってからでもいい?」と言い聞かせたり、どうしてもぐずぐずのときは無理やり片手で抱っこ。
スーパーにいるときは「おやつ食べる?」と言って気を紛らわせていました。下の子を抱っこ紐に入れたまま上の子の抱っこするのは大変なので、とても困りました…。
外出時の「抱っこ」コール、本当に困りますよね。片手で一人ずつの抱っこ、臨機応変で素晴らしい対応だと思います。
上の子も疲れたり、眠かったりするとママに安心を求めたくなってしまいます。「抱っこ抱っこ」は安心を求めるサインなので、まずは立ち止まって、子供の気持ちを確認して、受け止めてあげてください。
「疲れた(眠たい)のね。ここまで、よく頑張ってエライね」「ママ、○○(上の子)のおかげでとても助かってるよ」と伝えて、余裕があるならば、ハグしたり、手をつないだり、ママのモノ(上着・帽子・マフラー)をかしてあげたり、ママの存在を近くに感じられるような工夫をしてあげると少し落ち着くかもしれません。
赤ちゃん返りエピソード5.
「ぽんぽん(お腹)痛い」と言う
特に甘えたいときに「ぽんぽん(お腹)痛い」と最近よく言うので、寝っころがらせてお腹をさすってあげます。どうしても手を離せないときは、「ゴロンしてて!」と待ってもらいます。
明らかに仮病だと思いますが、本当にお腹が痛いのかな?と思うときもあり、どっちなのかなと悩むことがあります。
子供が甘えたいと思っていることに、よく気がついて対応できていますね。
お子さんは、ママにお腹をさすってもらうことがとても気持ちよくて安心できるのでしょうね。これはいわゆる「手当て」と言われるヒーリングです。
もし本当に少しお腹が痛くても、ママの手当てでよくなっているとしたら、それがその子にとって最高の治療法なのでしょうね。心配いらないと思います。
赤ちゃん返りエピソード6.
下の子のものを欲しがる
下の子が食事用エプロンをつけていると「私の!」と言うので、「赤ちゃんが着けるものだよ」と言い聞かせます。
でも下の子が生まれてから3歳の現在までずっと「自分は赤ちゃんだ」と言うので、響かないことがほとんどです。
仕方ないので上の子にもエプロンをつけたりしますが、正直めんどうくさいと思ってしまいます。
下の子に自我が出てきて、2人で取り合って大泣きすることも増えたので、どう対応すべきか困っています。
上のお子さんは、しっかり自己主張のできる立派な子ですね。一方で、自己主張に付き合うママが、めんどうくさいと思う気持ちもとても自然なことです。
めんどうくさいとは思いますが、当面は、上の子のまだ赤ちゃんでいたいという気持ちを受け止めて、求められれば下の子と同じような対応をしてあげるといいかもしれません。
そのうち満足すると、突然「私はお姉ちゃんだから」と言うようになるでしょう。
赤ちゃん返りエピソード7.
ごはんを自分で食べようとしない
ご飯中、下の子にご飯を食べさせていると、苦手なものが残ると「もういらない、自分で食べられない」と言います。
「ちゃんと食べなさい」と言いますが、それでも食べないときは「じゃあごちそうさま」と食事を終わらせます。
あまりにも食べない場合は、少し食べさせてあげると自分で食べ出すのですが、下の子にご飯を食べさせるので精一杯なので、上の子には自分で食べて欲しいです…。
下の子に手がかかるから、上の子には自分で食べてほしいと思うママの気持ちは、とてもよく理解できます。
食事をしないのは、「まだママに甘えたい、手をかけてほしい、かまってほしい」という気持ちの表れだと思います。
食事の際は忙しくてかまう余裕がないことが多いと思いますが、それ以外の時間があるときに上の子もスキンシップなどして、たっぷりと甘えさせてあげましょう。安心して自分の食事に集中できるようになると思います。
編集部ママも悩んでた!
赤ちゃん返りに関する質問コーナー
この他にも、編集部の2人の子供を育てるママたちから集まった赤ちゃん返りに関する疑問に、佐藤先生に答えてもらいました。
虚言はどのように対応すればいい?
上の子は、いつも下の子の寝かしつけに協力的。3人で一緒に寝るのですが、ある日、先に下の子を寝かしつけていると、上の子が隣で「ママ、虫がいっぱいいるよ!寝られない!」と言ってきました。
明らかに虚言なので「もう少し待っててね」としか言えず、そのまま待っててもらったのですが、どう対応したらよかったのでしょうか…。(ちえさん)
その対応で大丈夫だと思いますよ。その日は特にママの注意を引きたかったのかもしれませんね。
上の子が日頃から寝かしつけに協力してくれていて助かりますね。その感謝を「いつも手伝ってくれて、ありがとう。」「○○(上の子)のおかげでママも○○(下の子)も助かってるよ!」と伝えてあげてください。
きっとママの役に立っていることが分かって、うれしいでしょう。
「上の子を優先」はいつまで?
赤ちゃん返りの対応法として、よく「上の子を優先しましょう」と言われますが、一体いつまで上の子を優先すればいいのでしょうか…?下の子のお世話で精一杯です…。(ようこさん)
基本的に、上の子をずっと優先してあげるのが良いと思います。
安心や不安といった感情は上から下へと流れていきます。上の子が安心して満ち足りていると、何を言わなくても自然と下の子に優しくできます。上の子が不安や不満でいっぱいだと、下の子をいじめたり、荒く扱ったり、八つ当たりしてしまいます。
そういったことから、まず一番大事なことは、「パパとママがお互いを大切にすること」です。そのあとで、上の子を安心させ、次に下の子を安心させる…という流れが、最も上手くいくようです。
この傾向は、子供が大きくなっても変わりません。スキンシップや話を聞く順番などを意識してみましょう。そして、ときには「○○(上の子)がいい子だから、○○(下の子)がいい子なんだね~」と上の子の存在を強調してあげるといいかもしれません。
※読者からの問い合わせを頂戴したため、意図が伝わりやすい文章に変更致しました。
どうしても上の子の対応ができない場合は?
特に忙しいときは、イライラしてしまってどうしても上の子の赤ちゃん返りに対応しきれないことがあります。
この場合、下の子の対応する前に「あとで聞いてあげる」と言って、その後に上の子のフォローをしてあげれば良いのでしょうか?(ゆきえさん)
状況にもよりますが、まずは上の子の気持ちを汲み取ってみるといいかもしれません。上の子が感じていることを、「眠たいんだね(疲れてるんだね)」「さみしいんだね、分かったよ」「ママ、ここにいるから、大丈夫だよ」と一旦受け止めてから、下の子のフォローをするといいかもしれません。
ママが忙しいときは、イライラして上の子の赤ちゃん返りに対応できないときもあります。それはとても自然なことです。
常に子供に完璧に対応することは、とても難しいこと。その場その場を臨機応変に、自分なりにアレンジしながら、「失敗したら修正すればいい」「間違ったらごめんねをすればいい」と、ほどよく対応できれば充分だと思います。
赤ちゃん返りは成長の過程!
根気強く向き合おう
赤ちゃん返りをしている子供とどのように接したらいいのか、悩んでいるママは多いと思います。下の子のお世話で精一杯で、しっかり対応できないということもありますよね。
しかし赤ちゃん返りは、子供の発達の過程においてとても大切なこと。
ちょっとした声かけやスキンシップでも子供は安心できるので、子供の気持ちを汲み取りながら、根気強く向き合ってあげてくださいね。
イラスト・取材協力:はしゆさん
3歳女の子と1歳男の子、二人の小さい怪獣のお母さんです。普段は専業主婦をしていて、育児の合間にお絵描きをしています。甘いもの、コーヒー、餃子が大好き。Instagram(@mi_colo)には、家族の日常を漫画にして投稿しています。
取材協力:臨床心理士 佐藤文昭先生
おやこ心理相談室 室長。カリフォルニア臨床心理大学院臨床心理学研究科 臨床心理学専攻修士課程修了。米国臨床心理学修士(M.A in Clinical Psychology)。精神科病院・心療内科クリニックの医療現場や群馬県スクールカウンセラーの教育現場での臨床経験を生かし、幼児・児童、思春期から成人に至るまで幅広い問題を扱っています。精神分析的心理療法を中心として、心理検査、知能検査なども実施。また、個人だけではなく、家族というより広い視野を持って取り組んでいます。