妊娠中は、ホルモンバランスが大きく変わるため、精神的・身体的にストレスが溜まりやすくなることもあります。「お腹の赤ちゃんにとって良くないのでは」と、心配になる妊婦さんもいるかもしれませんね。
今回は、妊婦さんがストレスを感じやすい理由や、妊娠中のストレスが体や胎児にもたらす影響、上手にストレスを発散する方法についてご説明します。
妊娠中はストレスが増える?
そもそも「ストレス」は、体や心に負荷を与える外部からの刺激(ストレッサー)に適応するための反応のことです。
日常生活のなかには、「物理的ストレッサー(暑さ・寒さ、騒音、混雑など)」や「化学的ストレッサー(大気汚染や薬物など)」、「心理・社会的ストレッサー(人間関係や仕事、家庭の問題など)」といった、様々なストレス要因があります(※1)。
妊娠中は特に、体型や体調が変化したり、行動が制限されたりすることで「心理・社会的ストレッサー」が増え、それによって精神的・身体的なストレス反応が多くなることがよくあります。
一時的なストレス反応であれば、ストレッサーに適応するためのものなので問題ありませんが、長く続く場合は過剰なストレス状態に陥っている可能性があります。
後述のとおり、ストレスが過剰になると母体や胎児に悪影響を与える恐れもあるので、上手にストレスと付き合っていくことが理想です。
妊娠中のストレスの原因は?
妊娠中は、精神的にも身体的にも、様々なストレスがある状態です。
いま、次のような原因でストレスを感じているとしたら、それはあなただけでなく、多くの妊婦さんに共通するものです。「妊娠中はよくあること、仕方ないこと」と考えて、自己嫌悪に陥る必要はないですよ。
身体的ストレス
体型の変化
妊娠週数が進むにつれて体重が増加し、お腹が大きくなってきます。体型を維持したいと思う女性にとっては、妊娠による変化が大きなストレスになるかもしれません。
しかし、妊娠中は、母体の健康を保ちながら胎児にも栄養を送る必要があるため、体重が増えるのは自然なこと。必要以上に体重が増えるのは良くありませんが、痩せすぎもお腹の赤ちゃんの発育に悪影響を与えてしまいます。
産後は、少しずつ体重が元に戻っていくので、あまり心配しすぎないでくださいね。
マイナートラブルの増加
妊娠中はつわりを代表に、腰痛・腹痛・頭痛・頻尿・便秘・抜け毛・肌荒れなど様々なマイナートラブルが現れることもあります。また、乳輪が大きくなり、黒ずむなどの変化も起こります。
こうした変化が起きると、体調がつらいのはもちろん、自分の体が自分のものではないような感覚になり、ストレスに感じることもあるかもしれません。
しかし、これらは妊娠によるホルモンバランスの変化によるもので、産後には解消されるものがほとんどです。「期間限定のものなんだ」と捉えられるといいですね。
精神的ストレス
出産・育児への不安
妊娠中は、ホルモンバランスが大きく変化することで、情緒不安定になったり涙もろくなったりと、精神的な変化が現れることもあります。
それに加えて、「赤ちゃんは健康に生まれてきてくれるだろうか」「自分はちゃんと育児ができるだろうか」と、出産や産後の生活に不安を抱く人もいるかもしれません。
出産前だからこそ、パートナーとゆっくり相談する時間を取ることも大事ですし、ネガティブなことばかり考えそうになったら、「赤ちゃんの名前は何にしようかな」「生まれたらどんな場所にお出かけしようかな」など、ワクワクできることに気持ちを向けてみてくださいね。
行動が制限されることへの苛立ち
お腹が大きくなると思うように身動きがとれなくなり、妊娠前のようにはアクティブに動きづらくなります。また、体型が変わることで、着られる服も少なくなりますよね。
そのうえ、妊娠中は食事や飲み物、生活習慣、体重管理、服薬など、気をつけなければならないことがたくさんあります。できないことばかりが目につき、ストレスを感じる人もいるかもしれません。
あまり動き回れないぶん、家で読書や映画鑑賞を楽しんだり、ネットでおしゃれなマタニティウェアを探してみたりと、妊娠中だからこそできることも楽しめるといいですね。
パートナーへのストレス
女性は実際に妊娠するので、母親になる自覚を早く持ちやすいのですが、男性は、赤ちゃんが生まれるまではなかなか実感が湧きづらいものです。
自分がつわりなどでつらいときや、アルコールなどを我慢しているときに、パートナーが毎晩飲んで帰ってきたり、自由に遊びに出かけたりするのを見ると、「どうして私だけ」とイライラしてしまう、という声もよく聞かれます。
まずは、「ホルモンバランスの変化でイライラしやすい」ということをパートナーにも理解してもらいましょう。また、妊婦健診や両親学級に一緒に参加して、父親としての自覚を持ってもらうなどして、少しずつストレス要因を減らしていけるといいですね。
妊娠中のストレスは腹痛を引き起こすの?
妊娠中だけの話ではありませんが、ストレスがかかると自律神経が乱れ、胃やお腹が痛くなることがあります。
また、あまりに大きなストレスを抱えると、吐き気や倦怠感、頭痛、肩こり、めまい、不眠などの症状が現れることも。
どの症状も、少し休んで良くなる一時的なものであれば心配しすぎる必要はありませんが、「腹痛がずっと続く」「頭痛が治まらず日常生活に支障が出る」といった場合には、無理せずかかりつけの産婦人科を受診しましょう。
妊娠中のストレスが胎児に与える影響は?
先述のとおり、妊婦さんはどうしても様々なストレスを感じてしまうもの。一時的なものであれば、すぐに胎児に悪影響を与えるとはいえないので、あまり心配しすぎないでくださいね。
「自分がストレスを抱えていることで、赤ちゃんに良くない影響があるのでは」と考えすぎてしまうと、それがかえってストレスになり、悪循環を生んでしまいます。
ただし、妊娠中の過度なストレスは、「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)」の増加につながり、それが子宮収縮や頸管熟化を促進することで、切迫早産や早産の原因になるということがわかっています(※2,3)。
ストレス状態が長く続いていて、自分ひとりでは解消できないと感じたときには、後述の方法で発散したり、かかりつけの産婦人科医に相談したりと、赤ちゃんのためにもストレスを解消していきましょう。
妊娠中のストレス発散法は?
妊娠中のストレスを完全になくすことは難しいかもしれません。しかし、大切なのはストレスを溜めこまないことです。適度にストレスを発散することで、自分の体や胎児に悪影響を与えないようにしたいですね。
不安なことがあるときは、ひとりで抱え込まず、パートナーや友人、両親など、信頼できる人に自分の状況や気持ちを話してみましょう。言葉に出してみたり、ただ話を聞いてもらったりするだけで気持ちがスッと軽くなるかもしれませんよ。
また、適度な運動はストレス解消だけでなく、体力づくりにもなるため、安産にもつながります。妊娠の経過が順調であれば、妊娠前と同じように体を動かしても問題ありません。ただし、転んだりぶつかったりしやすいスポーツは避けてくださいね。
カラオケで大きな声を出したり、好きな趣味に没頭したりするのもいいですね。仕事がストレスになっている場合は、思いきって早めに産休をとることを検討してもいいかもしれません。
妊娠中のストレスはこまめに解消しよう!
特に初産婦さんの場合、はじめてのことばかりで不安や戸惑いを感じることも多いかもしれません。ストレスを感じること自体は悪いことではありませんが、溜めこまないようにはしたいもの。
適度に気分転換しながら、うまくストレスと付き合っていけるといいですね。
監修医師:産婦人科医 間瀬徳光先生
2005年 山梨医科大学(現 山梨大学)医学部卒。板橋中央総合病院、沖縄県立中部病院などを経て、現在は医療法人工藤医院院長。産婦人科専門医、周産期専門医として、産科・婦人科のいずれも幅広く診療を行っている。IBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)として、母乳育児のサポートにも力を注いでいる。
【参考文献】
※1 厚生労働省「こころの耳:ストレス軽減ノウハウ 1 ストレスとは」
※2 日本産科婦人科学会『2)切迫流産, 流産 6. 異常妊娠 D.産科疾患の診断・治療・管理 研修コーナー』p.666
※3 株式会社メディックメディア『病気がみえるvol.10 産科 第4版』p.167