自分の子どもがほかの子ども達と遊んでいる様子を見ていて、「うまくコミュニケーションを取れていないかも?」と心配になることがあるかもしれません。子どもの発達はそれぞれ違うので、単なる個人差なのか、それとも発達障害が疑われるのか、すぐには判断がつかないですよね。
そこで今回は、発達障害の一つである「広汎性発達障害」について、原因や特性、子どもとの向き合い方などをまとめました。
広汎性発達障害とは?自閉スペクトラム症(ASD)と同じなの?
「広汎性発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群、レット症候群といった発達障害の総称として用いられてきました(※1)。
発達障害の区分に変更があり、現在では「広汎性発達障害」は、自閉症やアスペルガー症候群などと共に「自閉スペクトラム症(ASD)」と同義語で使われることが多いです(※2)。
広汎性発達障害の原因は?
広汎性発達障害の原因はまだはっきりと特定されていないものの、多くの遺伝的な要因が関係して起こる生まれつきの脳機能の障害ではないかと考えられています(※2)。
また、妊娠中の胎内環境や周産期のトラブルも関係している可能性があるとされています(※2)。
広汎性発達障害は、あくまでも「生まれつきの特性」なので、ママやパパの育て方やしつけ方、本人の性格が原因で起こることはありません。
広汎性発達障害の特性は?
広汎性発達障害の子どもには、一般的に次にご紹介するような特性がみられます。ただし、特性の現れ方や程度には個人差があります。
言葉の発達の遅れ
幼児期に言葉の発達の遅れがみられることが多いです。ただし、一口に広汎性発達障害といっても、寡黙な子もいれば、言語能力が高く多弁な子もいます。
また、質問された返答として、相手と同じ言葉を繰り返す(オウム返し)、一方的に好きなことを話す、言葉の最後にイントネーションが上がるといった特徴がみられることもあります。
コミュニケーションの障害
考えを表に出すことが苦手で、意図のないおしゃべりを嫌う子や、人見知りせず相手を選ばずに自分のペースで話をする子、話す量は平均的だけれど独特な話し方をする子などがいます。
その場に合ったことが言えなかったり、逆に言ってはいけないことを言ってしまったりと、いわゆる「空気が読めない」発言をしてしまうこともあります。
これらは一見、ばらばらの特徴のようですが、「自分の世界と他人の世界の境界(ニュートラルゾーン)を理解しにくい」という点では共通しているといえます。
視線が合いにくい
視線が合いにくい子や、一瞬チラッと見て視線を外す子がいます。
ただし、すべての子どもにこの傾向がみられるわけではなく、よく視線を合わせる子もいます。また成長に従って、視線を合わせるように変化していくこともあります。
パターン化した行動、こだわり
同じ行動を繰り返す、決まった順序にこだわる、好き嫌いが激しいなど、こだわりの強さがみられます。それらが乱されると、興奮、泣き、奇声といったパニックに陥ることも少なくありません。
感覚に過敏または鈍感
音や光、肌触り、歯ごたえなどの感覚・刺激に鋭敏であることが多いですが、逆に鈍感な場合もあります。
特定の音が怖くてどうしてもその場所に行けない、乗り物に乗れない、味や食感が鋭敏で特定の食べ物しか食べない、といった子もいます。
こういった感覚の過敏さ・鈍感さは、小さいうちは言葉で違和感を訴えることができず、親がなかなか気づけないケースも多いようです。
広汎性発達障害の治療法はあるの?どう向き合うといい?
広汎性発達障害は生まれつきの脳の機能障害で、そもそもはっきりとした原因がわかっていないため、根本的な治療法はありません。
しかし、本人の特性に合った療育や教育的な対応を早期から行うことで、他の子たちとほとんど変わりなく成長していくことができます。強いこだわりなどの個別の特性は、薬によって改善できるケースもあります。
発達障害のある子どもが社会に適応する力を身につけながら、自分らしく成長できるように、周囲が障害にできるだけ早く気づき、以下のように適切な向き合い方をしていくことが大切です。
特性に応じて配慮・サポートする
特性の程度や現れ方は人それぞれで、生活の中で困難なこと、苦手なことも一人ひとり違うため、次にあげるように個々の特性に応じて配慮したり、サポートしたりしていくことが求められます。
できたことをほめる・失敗を責めない
発達障害のある子どもは、ほかの子が簡単にできることでも困難に感じることが多くあります。
失敗を責めたり頭ごなしに叱ってしまうと、子どもの自己肯定感が低くなったり、攻撃的・反社会的行動傾向が強まったりする可能性もあります。
その子が頑張っている点やうまくできている点をほめたうえで、どのようにすればもっと良くなるかを、肯定的かつ具体的に伝えてあげましょう。
簡潔に分かりやすく伝える
言葉だけで行動を促しても通じにくい場合があります。指示やアドバイスがなかなか伝わらないときには、口頭だけではなく、イラスト・写真・絵などを添えて説明してあげると、理解しやすくなりますよ。
感覚過敏による不安を取り除く
感覚過敏により、人混みや大きな音、光などの刺激を苦手とする子どももいます。
そのような刺激が大きいと、パニックを起こしてしまうことがあります。できるだけ不快感を大きくしないよう、安心して過ごせる環境を作ってあげましょう。
例えば、指をいじったり、爪を噛んだりする癖があるとします。パパやママにとっては気になる行動かもしれませんが、その子にとっては気持ちが落ち着く刺激であるかもしれません。
それを無理に止めようとすると癇癪やパニックを起こす可能性もあるので、急にやめさせるのではなく、ボールのおもちゃを代わりに持たせてあげるといった工夫をしてみましょう。
ルールが不明瞭な遊びは避ける
広汎性発達障害を持つ子は、「暗黙の了解」を汲みとりづらいことが多いです。
ほかの子どもと遊ぶときは、ごっこ遊びやルールが不明瞭な遊びよりは、一緒にテレビを観たり、同じ空間で個別にパズルやブロック遊びをしたりする平行遊びがおすすめです。
「療育」で二次障害を防ぐ
「療育」とは、「医療や訓練、教育、福祉などを通じて、障害があっても社会に適応し自立できるように育成すること」です。
発達障害が周囲に理解されず、適切なサポートを受けられないと、障害を持つ子にとって保育園や幼稚園、小学校での集団生活がストレスとなり、不登校や引きこもりなどの二次障害につながる場合もあります。
そういった状況を回避するため、発達障害に気がついたら、適切な療育につなげることが重要です。
「うちの子は発達障害かも?」と、少しでも気になったら、早めにかかりつけの小児科や発達障害者支援センターで相談してみましょう。
発達障害者支援センターでは、発達障害を持つ人への相談支援などを行っているほか、医療・保健・福祉・教育・労働等の各関係機関と連携を図りながら、障害の特性とライフステージに合わせた支援を提供していますよ。
広汎性発達障害の特性を理解してサポートしていこう
「広汎性発達障害」は、現在は「自閉スペクトラム症」に含まれていて、支援や理解も深まっています。「自閉スペクトラム症」と疑われたり実際に診断されたりすると戸惑うこともあるかもしれませんが、今回ご紹介したように、特性は人それぞれです。
その子が自分らしく成長できるように、特性に応じた適切な向き合い方をしていけるといいですね。
監修医師:小児科医 黒木春郎
日本小児科学会専門医、子どもの心相談医。1984年千葉大学医学部卒。現在はこどもとおとなのクリニック パウルームの院長として診療を行っております。公認心理師や発達臨床心理士の資格も取り、お子さんとご両親にとって豊かな環境をご提供できる場となるよう尽力しております。
※1 政府広報オンライン「発達障害って、なんだろう?」
※2 厚生労働省 e-ヘルスネット「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」