子どもの普段の生活の様子を見ていて、「ボーっとしていて忘れ物が多い」「じっとしていることができない」 といった行動が気になるママ・パパもいるのではないでしょうか。不注意や多動・衝動的な行動に関するトラブルが多い場合、「ADHD(注意欠如・多動症)」の可能性が疑われることもあります。
今回はADHDについて、原因や特徴・特性、診断基準、治療方法などをご紹介します。
ADHD(注意欠如・多動症)とは?
「ADHD(注意欠如・多動症)」とは、「不注意」「多動性」「衝動性」を主な特徴とする発達障害(神経発達症)のひとつです(※1)。
厚生労働省によると、ADHDである子どもの割合は小学生から中学生までの3~7%程度とされています(※1)。30人クラスで考えると、1クラスに1~2人はADHDの子どもがいることになります。
男女比では、女の子より男の子の方がADHDである子が多いとされています(※2)。
ADHD(注意欠如・多動症)の原因は?
ADHDの原因ははっきりと解明されていませんが、生まれつきの脳の働き方の違いで起こるとされています。
ママの妊娠中の喫煙や飲酒、若年での出産、妊娠中のストレス、遺伝などで発症率が上がるという報告もあります(※3)。
ADHDは、あくまでも「生まれつきの特性」なので、親の育て方やしつけ方、本人の性格が根本的な原因で起こることはありません。
ADHD(注意欠如・多動症)の子どもの特性は?気づくためのポイントは?
ADHDの子どもの特徴である「不注意」「多動性」「衝動性」には、それぞれ次のような特性があります(※3,4)。
不注意
幼児期には、不注意の特性が現れることはほとんどなく、好奇心旺盛で活発な子どもという印象をもたれることが多いようです。
小学生頃になると、以下のような特性がみられることがあります。
● 細かいことに注意を払えないことが多い
● 言われたことをやり遂げられないことが多い
● 作業を手際よく行えず雑なことが多い
● 遊びや勉強に注意を持続させることが難しい
● 連絡帳やノートをとれない
● 忘れ物が多い
● よそ見が多い
● 提出物を出さない など
多動性
幼児期は、「じっとしていることが苦手」「たくさん動き回る」といった特性がみられるものの、この時期は、どの子も活動性が高い傾向にあるため、多動性が注目されることはあまりありません。
小学生頃になると、以下のような特性がみられることがあります。
● 絶えず動き回っている
● 授業中に大声で話しかける
● しゃべり過ぎることが多い
● いつも体をもじもじ、そわそわと動かしている
● むやみに走り回り、興味のおもむくままに乱暴にものを取り扱う など
衝動性
幼児期は、以下のような特性がみられることがあります。
● いきなり手を振り切って駆け出す
● 道具や遊びの順番を待てない
● 邪魔だと感じた子を突き飛ばす
● 他の子が持っているものを取り上げる など
小学生頃になると、以下のような特性が目立つようになることが多いです。
● 軽はずみで唐突な行動が多い
● ルールの逸脱が多い
● 教師からの質問に指される前に答えてしまう
● 他の子にちょっかいを出してトラブルになる
● 道路に突然飛び出す など
上記の特性のいくつかに当てはまるからといって必ずしもADHDであるとは限りませんが、「もしかしたら…」と感じたときは、かかりつけの小児科やお住まいの自治体の相談窓口、発達障害者支援センターなどに相談しましょう。
ADHDは、小学校に入るまでわからない場合も多いです。確実な診断には専門の医師に時間をかけて診てもらう必要があります。
はっきりと診断されずに日常生活を送っていると、不注意や落ち着きのなさについて特性であることを理解できず、叱ってしまうことで子どもが劣等感を抱いたり自尊心が育たなくなったりと、成長に悪い影響が出る恐れもあります。
そのため、できるだけ早い段階でADHDの可能性に気づき、子どもの特性を理解して社会に適応する力を育むサポートをすることが大切です。
ADHD(注意欠如・多動症)の治療法は?
ADHDは、症状によっては成長とともに目立たなくなる傾向を持つものもあります。
ADHDの子どもに向けた治療としては、主に以下のような方法があります(※1,3)。
環境を整える
学校や家庭で勉強や作業をするときの環境を、子どもが集中できる状態に整えます。具体的には下記のような方法で整えていきます。
● 教室での机の位置や掲示物の見せ方を工夫して授業に集中しやすくする
● 勉強する時間を10~15分ごとなど集中しやすい時間に区切る
● 部屋にあるおもちゃを見えない場所に置いて集中が途切れないようにする など
成功体験を増やす
授業中にきちんと座っていられた、集中して勉強ができたなど、望ましい行動をしたときは都度しっかり褒めます。
一方で、不適切な行動で許容できるようなものはある程度受容し、成功体験を増やすことで子どもの行動自体を変えていきます。
ソーシャルスキルトレーニングを受ける
ソーシャルスキルトレーニングは、ADHDの子ども自身が社会で自立した生活を送るためのスキルを学ぶプログラムです(※5)。
さまざまな状況に応じて、どのように相手とコミュニケーションをとったらいいか、どんな行動をしたらいいのか、といったことを学びます。
ペアレントトレーニングを受ける
ペアレントトレーニングは、ママやパパなど保護者がADHDの子どもとの関わり方を学ぶプログラムです(※6)。
褒め方や指示の仕方、子どもの行動分析などを学びます。
薬での治療
幼児期にADHDと診断された場合、原則として薬は処方されません。
小学生以上になると、医師の判断によって薬が処方されることもあります。薬を服用することで不注意・多動性・衝動性といった症状が和らぎますが、効果には個人差が大きいです。
ADHDの治療薬には、いくつかの種類があります。専門の医師とよく相談したうえで子どもにあった薬を処方してもらうようにしてください。
ADHDも個性のひとつ
一口にADHDといっても、特性には個人差があるので、その子に合わせたサポートを行うことが大切です。
ADHDの子どもは、自分の好きなことには集中して取り組めることが多いので、好きなことを見つけるサポートもしてあげられるといいですね。
気になることや不安なことがあったら、発達障害者支援センターや市区町村の保健センターに相談したり、同じADHDの子どもを持つママ・パパの体験談を聞いたりしながら子どもの成長を見守っていきましょう。
監修医師:小児科医 黒木春郎
日本小児科学会専門医、子どもの心相談医。1984年千葉大学医学部卒。現在はこどもとおとなのクリニック パウルームの院長として診療を行っております。公認心理師や発達臨床心理士の資格も取り、お子さんとご両親にとって豊かな環境をご提供できる場となるよう尽力しております。
※1 厚生労働省e-ヘルスネット「ADHD(注意欠陥・多動性障害)の診断と治療」
※2 MSDマニュアル プロフェッショナル版「注意欠如・多動症(ADD,ADHD)」
※3 じほう ADHDの診断・治療指針に関する研究会『注意欠如・多動症 -ADHD- の診断・治療ガイドライン 第5版』
※4 MSDマニュアル 家庭版「注意欠如・多動症(ADHD)」
※5 厚生労働省「第8 障害者支援の総合的な推進」p.78-79
※6 厚生労働省「ペアレント・トレーニング実践ガイドブック」