自閉スペクトラム症(ASD)とは?原因や特性、接し方は?

子どもの成長過程には個人差がありますが、他の子に比べて発達が遅かったり特異な行動が見られたりすると、「発達障害なのかな」と心配になるかもしれません。なかでも「自閉スペクトラム症(ASD)」は普段から耳にすることも多く、どんな特性がいつ頃から現れるのか気になる人も多いのではないでしょうか。

今回は、自閉スペクトラム症について、原因や特性、治療法の有無、接し方などをご紹介します。

自閉スペクトラム症(ASD)とは?

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「自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)」とは、「自閉症」「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」などをまとめた総称で、発達障害の一種です。

自閉スペクトラム症の子どもにみられる特性には、主に次のようなものがあります(※1,2)。ただし、現れ方や強さは人それぞれです。

● 対人関係で臨機応変に対応することが苦手
● 特定のものやルールに対して強いこだわりを示す
● 言語の発達が遅く、しゃべらなかったり言葉の指示を理解しなかったりする

自閉スペクトラム症の発生頻度は約100人に1人という報告があり、男女比では男の子に多く、女の子の約4倍とされています(※1)。

自閉スペクトラム症の原因は?

自閉スペクトラム症の原因は、まだはっきりしたことは分かっていませんが、さまざまな遺伝的要因などによって起こる生まれつきの脳の機能障害が関係しているとされています(※1)。

また、妊娠中の胎内環境や周産期のトラブルも関係しているのではとも考えられています(※1)。

かつては、自閉スペクトラム症は親の教育に原因があるという声もあったようですが、あくまでも「生まれつきの特性」なので、育て方やしつけ方、本人の性格が原因で起こることは決してありません。

自閉スペクトラム症の特性は?乳幼児期でも現れる?

自閉スペクトラム症は、1歳頃までに特性が顕著になることもあれば、学童期(6歳頃)まで特性が気づかれにくいこともあります(※2)。

自閉スペクトラム症と併せて知的障害をもっていることも多く、話し出す時期が他の子より遅かったり、変わった言葉遣いをしたりすることが多いです。

その他に、対人関係・コミュニケーションにおける特性と、興味・関心における特性があります(※1,2)。

対人関係・コミュニケーションにおける特性

自閉スペクトラム症の子どもは、一人でいることを好む傾向にあります。人と接するときには一方的に自分の気持ちだけを伝えたり、逆に何も話さなかったりします。

身振りや表情など言葉を介さない感情表現や行間を読み取ることが苦手なので、その場の空気を読んで対応できなかったり、人からの指示をうまく理解できなかったりします。

自閉スペクトラム症がない子どもは人とのコミュニケーションも楽しみ、ママ・パパや友達の行動を真似したり興味を引こうとしたりしますが、自閉スペクトラム症の子どもは他人に対しての興味が低く、そのような行動はあまり見られません。

他にも、人と目を合わせようとしない、名前を呼んでも反応しない、話しかけてもオウム返しをする、などの特性があります。

興味・関心における特性

自閉スペクトラム症の子どもは、特定のものへ強い興味や関心を抱くという特性があります。興味や関心を持っているものへの探究心が旺盛なので、大人顔負けの知識を身につけることもあります。

また、おもちゃで遊んだり片付けをしたりするときも、手順や並べ方に自分なりの強いこだわりがあるので、いつも同じ手順や並べ方をしないと癇癪を起こすこともあります。そのため、いつも同じ行動を繰り返しているように見えます。

自閉スペクトラム症の診断の方法や基準は?

自閉スペクトラム症かどうかは、専門の医師が時間をかけて子どもの様子を観察したり、親から普段の様子を聞いたりした上で、次のような特性が見られるかを踏まえて診断されるのが一般的です(※1)。

□ さまざまな状況(家庭や保育園・幼稚園)において、人とコミュニケーションを図ること及び他人の気持ちや感覚を読み取る能力が欠如している

□ 行動や興味の強いこだわりがあり、それによって同じ動きや会話を繰り返したり、ひとつのことに固執したりする

□ 感覚に過敏または鈍く、大きな声で話しかけられても気づかなかったり、特定の音にだけ過剰に反応したりといったことがある

□ こういった特性によって家庭や保育園・幼稚園、学校での生活に支障が起きている など

乳幼児健診などで自閉スペクトラム症の可能性を指摘された場合は、かかりつけの小児科や保健センター、発達障害者支援センター、自治体の障害福祉課などに相談して専門医を紹介してもらいましょう。

自閉スペクトラム症の治療法はあるの?

自閉スペクトラム症は、生まれつきの脳の機能障害で、はっきりとした原因がわかっていないため、薬を飲めば完治するということはなく、基本的に一生を通して付き合っていくことになります。

ただし、本人に合った療育や教育的な対応を早期から行うことで特性である行動を改善していくことは可能です。療育にはさまざまな方法がありますが、基本的には専門機関でトレーニングを受けます。

また、特定の薬を服用することによって、強いこだわりや多動、かんしゃくなどの特性を軽減させられることがあります。

本人の特性をしっかり理解したうえで専門医と相談して、療育機関に通う必要があるかどうかなども含めて検討するようにしましょう。

自閉スペクトラム症の子どもへの接し方は?

自閉スペクトラム症と診断されたら、子どもにどのように接すればいいのか迷うことがあるかもしれません。しかし、特性の多くは成長とともに軽減していくことが多いです。

基本的には、過度に特別視するよりも「少しこだわりが強い子」「マイペースな子」と考えて、自由に伸び伸びと過ごせる環境を提供してあげるといいでしょう。ママやパパが不安を感じさせないことも大切です。

特性の強さや現れ方には個人差があるので、以下の方法を参考にしながら、専門医と相談して日常生活での対応方法を決めていってくださいね。

人と関わる機会を与える

自閉スペクトラム症の子どもは一人でいる傾向が強いのですが、他人とのコミュニケーション方法を学ばせるためにも、いろいろな人と交流する機会を作ってあげましょう。

無理にたくさんの人に会わせる必要はありませんが、人との出会いを通して、少しずつ社会性を身につけていけるといいですね。

指示は簡潔に分かりやすく伝える

行動を促す場合は、言葉だけで伝えても通じにくいので、絵やカードを使って視覚的に見せるなど、抽象的ではなく具体的にはっきりと分かりやすく伝えることが大切です。

落ち着いた環境を用意する

自閉スペクトラム症の子どもは刺激に対して敏感なことがあるので、人混みや騒がしい場所は苦手なこともあります。

ストレスが溜まらないように、できるだけ人が少なく、静かな環境で過ごさせることも一つの方法です。

気持ちを切り替えられるようにサポートする

こだわりが強いために、次の行動に移らなくてはいけないときなどに気持ちを切り替えられないことがあります。無理矢理やめさせるのではなく、以下のような工夫をするといいでしょう。

● タイマーを使って、勉強・遊び・食事などの時間を区切る
● 時間・場所・行動などを視覚的に描いたタイムスケジュールを作って、いつどこで何をするべきかを教える
● 初めて何かを行うとき、初めての場所に行くときなどは、事前にしっかり説明して不安を和らげるようにする

自閉スペクトラム症は早期発見が大切

子どもの普段の様子から、言語の理解が乏しい、他人に興味を持たず一人で特定のことに没頭する、同じ行動を繰り返す、といったことが気になるようであれば、乳幼児健診で相談したり小児科を受診したりしましょう。自閉スペクトラム症であることが早期にわかれば、その子の特性や成長にあったサポートを早く始めることができます。

自閉スペクトラム症と診断されたら、子どものひとつの個性だと捉えて長所を伸ばせる環境を作っていきましょう。自閉スペクトラム症の子どもだからこそ見える世界があることを理解して、個性を大切に育んでいけるといいですね。

監修医師:小児科医 黒木春郎

小児科医 黒木春郎先生
日本小児科学会専門医、子どもの心相談医。1984年千葉大学医学部卒。現在はこどもとおとなのクリニック パウルームの院長として診療を行っております。公認心理師や発達臨床心理士の資格も取り、お子さんとご両親にとって豊かな環境をご提供できる場となるよう尽力しております。

※1 厚生労働省 e-ヘルスネット「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」
※2 MSDマニュアル プロフェッショナル版「自閉スペクトラム症」

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