出産のときの痛みは「鼻の穴からスイカを出すくらい」「肛門からボウリングの球をひねり出す感じ」などと耳にしますよね。そんな噂を聞いて、分娩時の痛さを緩和する「無痛分娩」が気になっている妊婦さんもいるのではないでしょうか。
今回は無痛分娩について、メリットや知っておきたいリスク、麻酔の方法などをご説明します。
無痛分娩とは?費用はどれくらい?
無痛分娩とは経腟分娩のひとつで、麻酔薬などの医療処置によって陣痛の痛みを和らげながら出産する方法です。
まったく痛みがなくなるわけではなく、陣痛や出産時の痛みをある程度は伴います。
痛み止めの麻酔薬が使われても意識はある状態なので、いきんだり、出産直後の赤ちゃんを抱っこしたりすることができます。
無痛分娩は、全ての病院で実施しているわけではありません。2017年の調査では、全国の分娩施設のうち無痛分娩を行う病院は約30%でした(※1)。
無痛分娩を希望する場合は、無痛分娩に対応している病院を探して早めに相談するようにしましょう。
費用は病院によって異なりますが、通常の出産費用に加えて10〜20万円程度の自己負担が必要となります。
無痛分娩は計画分娩となることもあり、出産日の何日前から入院するか、入院中の部屋の種類などでも金額は変わります。
無痛分娩のメリットは?
無痛分娩には、主に次のようなメリットがあります(※1)。
母体への負担が少なく産後の回復が早い
無痛分娩は分娩時の痛みが和らぐことで体力を温存でき、母体への疲労感が少ないため、出産後の体の回復が比較的早いといわれています。
また無痛分娩を行うと、陣痛中に消費される酸素の量が少ないこともわかっています。
そのため心臓や肺に持病をもつ妊婦さんは、母体への負担を軽くするために医学的な理由で無痛分娩がすすめられることもあります。
赤ちゃんへの負担が少ない
分娩中はいきむときに呼吸を止めて力を入れるため、赤ちゃんに届く酸素量も減るといわれています。
基本的には問題ありませんが、合併症などで赤ちゃんへの血流が減っていると、自然分娩では赤ちゃんに影響がある可能性があります。
無痛分娩を行うと赤ちゃんへの血流が増えたという報告もあり、赤ちゃんへの負担が少なく済むメリットがあるかもしれません。
無痛分娩にリスクはあるの?
無痛分娩では、ごくまれに母体・胎児ともに命の危険に及んだり、重い後遺症が出たりした事例も報告されています。
無痛分娩を希望する場合は、以下のようなリスクがあることをふまえたうえで、医師やパートナー、家族と相談しながら検討するようにしましょう。
麻酔薬の副作用
麻酔薬を使用すると、次のような副作用が起こるとされています(※1)。
⚫ 足の力が入りにくくなる
⚫ 足の感覚が鈍くなる
⚫ 尿意を感じにくくなる
⚫ 尿を出しにくくなる
⚫ 低血圧
⚫ 体のかゆみ
⚫ 体温の上昇
このような副作用は、時間とともに症状が改善することがほとんどです。
また、まれではありますが、血管やくも膜下に誤って麻酔が注入されてしまい、神経麻痺や呼吸のトラブルなどを起こすリスクもあります(※1)。
器械分娩による分娩時の出血
無痛分娩ではお産がスムーズに進まないことがあります。分娩時間があまりに長引くと、母体と赤ちゃんに負担がかかってしまいます。
その場合、吸引や鉗子が使われたり、帝王切開が必要となったりすることもあります。吸引分娩や鉗子分娩を行った後に出血が続く弛緩出血や、産道の一部に傷ができる産道裂傷が起こるリスクがあります(※1,2)。
無痛分娩の麻酔方法は?
無痛分娩で陣痛の痛みを和らげる方法はいくつかありますが、一般的に使用されるのは麻酔薬の影響が母子ともに少ない「硬膜外麻酔」です(※1)。
陣痛が始まったら妊婦さんと赤ちゃんの様子をチェックしながら、背骨の脊髄に近い場所(硬膜外腔)にチューブを入れて局所麻酔薬と鎮痛薬を注入します(※1)。針をさす際に、チクっとした痛みを伴います。
投与を開始してから20〜30分ほどで効果が現れはじめます(※1)。その後は、ごく少量の薬を持続的に投与して痛みが強く出ないように調整します。
痛みを伝える神経である脊髄の近くに麻酔薬を投与するため痛みを和らげる効果が強いですが、全身麻酔ではないので意識は分娩の最後まではっきりしています。
無痛分娩は医師にしっかり相談しよう
はじめての出産だと陣痛や出産がどれだけ痛いのか想像できず、怖いイメージを抱く人も多いかもしれません。
無痛分娩はお産の痛みが和らぐなどのメリットがある一方でリスクも伴うので、事前に医師から十分な説明を受け、疑問点があれば納得するまで聞くようにしましょう。
お産は、母子ともに健康に終えられることが最優先です。無痛分娩のメリットと注意すべきことをふまえたうえで、かかりつけの産婦人科医と相談しながら、パートナーや家族と一緒に自分たちに合った分娩方法を選択できるといいですね。
監修医師:産婦人科医 間瀬徳光
2005年 山梨医科大学(現 山梨大学)医学部卒。板橋中央総合病院、沖縄県立中部病院などを経て、現在は医療法人工藤医院院長。産婦人科専門医、周産期専門医として、産科・婦人科のいずれも幅広く診療を行っている。IBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)として、母乳育児のサポートにも力を注いでいる。
※1 日本産科麻酔学会「無痛分娩Q&A」Q3,6,7,13,14
※2 日本産婦人科学会「産婦人科診療ガイドラインー産科編2020」CQ421