妊娠が判明して「出生前診断(出生前検査)」を受けるかどうか考える妊婦さんもいますよね。赤ちゃんの生まれつきの病気を調べる検査にはいくつか種類があるため、何を受けたらいいのか迷ったり悩んだりすることもあるかもしれません。
そこで今回は、出生前診断について、検査の種類や受けられる時期、方法、費用などをご説明します。
出生前診断とは?
「出生前診断」は、お腹の中の赤ちゃんに染色体異常や先天性・遺伝性の病気、奇形などがないかどうかを調べる検査の総称です。
赤ちゃんは誰でも3〜5%の割合で生まれつきの病気をもって生まれてくる可能性がありますが、出生前診断ではそういった病気のうち、一部の染色体異常の病気などの可能性を調べることができます(※1,2)。
出生前診断は通常の妊婦健診の検査とは異なり、必須ではありません。検査を希望する場合は、事前に専門家による遺伝カウンセリングを受けることが推奨されています。
出生前診断にはどんな種類があるの?
出生前診断には、大きく分けて「非確定的検査」と「確定的検査」の2つの種類があります(※1)。
「非確定的検査」は、赤ちゃんの染色体などの病気があるかないかの可能性を調べるための検査です。確定診断にはならないため、結果によっては確定的検査を受けるかどうか検討する必要があります。
「確定的検査」は、赤ちゃんの染色体の病気が、ほぼ100%の確率でわかる検査です。さまざまな種類の染色体異常の有無がわかりますが、症状や病気の重さまでは調べられません。
出生前診断の非確定的検査:受けられる時期や費用は?
ここでは、非確定的検査にはどんなものがあるのか、各検査の受けられる時期、検査方法、費用、調べられる病気などをご紹介します。
NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)
・検査できる時期:妊娠9〜10週以降
・検査方法:採血のみ
・費用:10~20万円(自費診療で保険適用外。施設によっては確定診断の費用が含まれていることもある)
・結果が出るまでの日数:1〜2週間程度
・調べられる病気:ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミー
妊婦さんから採取した血液中のDNA断片を分析して、赤ちゃんに染色体異常がないかどうかを検査します(※3)。妊娠中の早い時期から検査できることが特徴です。
結果は「陽性」「陰性」「判定保留」のいずれかで示されます。ダウン症に関しては陽性的中率(陽性判定が出て実際にダウン症である確率)が比較的高いとされています(※4)。
超音波マーカーの検査・コンバインド検査
・検査できる時期:妊娠11〜13週
・検査方法:超音波検査、採血
・費用:5千~5万円程度(自費診療で保険適用外)
・結果が出るまでの日数:即日〜2週間程度
・調べられる病気:ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミー
赤ちゃんがダウン症、18トリソミー、13トリソミーである場合に変化が出やすい「マーカー」と呼ばれる場所を超音波で調べる検査です(※5)。
特に、首の後ろのむくみを測定することによって、病気が疑われるかどうかをチェックします。血液検査と組み合わせた「コンバインド検査」を行うことで、より精度が高くなります。
結果は「1/256」「1/8」といったように分数で示されます。例えば1/256の場合、「1/256という結果の人が256人いたら、そのうち1人はダウン症で、255人はそうではない」という意味になります。
「1」や「0」といった結果が出ることはなく、最大の数値は1/2です。
母体血清マーカーテスト
・検査できる時期:妊娠15〜18週
・検査方法:採血のみ
・費用:2~3万円程度(自費診療で保険適用外)
・結果が出るまでの日数:10日〜2週間程度
・調べられる病気:ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、開放性神経管障害
妊婦さんの血液を少量採取して血液中に特定の物質がどんなバランスで含まれているかを調べることで、赤ちゃんに染色体異常がないかどうか検査します。「クアトロ検査」と呼ぶこともあります(※6)。
結果は、コンバインド検査と同様に「1/256」「1/8」といった確率で表示されます。
出生前診断の確定的検査:受けられる時期や費用は?
次に、確定的検査の種類や、各検査の受けられる時期、検査方法、費用、調べられる病気などをご紹介します。
羊水検査
・検査できる時期:妊娠15〜16週以降
・検査方法:羊水を採取
・費用:10~20万円(自費診療で保険適用外)
・結果が出るまでの日数:2〜3週間
・調べられる病気:染色体の病気全般
超音波検査で赤ちゃんの位置や胎盤を確かめながら、妊婦さんのお腹に注射針を刺して子宮から羊水を抜きます(※7)。羊水中の赤ちゃんの細胞を培養して染色体異常があるかを調べます。
羊水検査のダウン症に対する検査感度はほぼ100%で、確定診断に使うことができます(※4)。
絨毛検査
・検査できる時期:妊娠11〜14週
・検査方法:絨毛を採取
・費用:10~20万円程度(自費診療で保険適用外)
・結果が出るまでの日数:2〜3週間
・調べられる病気:染色体の病気全般
超音波検査で赤ちゃんの位置や胎盤を確かめながら、妊婦さんのお腹から、あるいは腟から注射針を刺して、絨毛(胎盤から子宮壁に伸びる突起)を採取します(※8)。
採取した赤ちゃんの細胞を培養して、染色体異常の有無を調べます。
羊水検査と同じように検査感度はほぼ100%で、確定診断に使うことができます(※4)。
出生前診断のメリットは?
出生前診断をして、染色体異常の病気や先天性の病気の可能性が高いとあらかじめわかれば、以下のようなメリットがあります。
● 心の準備をしておける
● 早めに治療ができることがある
● 障害について事前に学べる
● 生後必要となるケアや資金面の調整を考える余裕ができる
高齢出産で染色体異常のリスクが高い妊婦さんや、過去に染色体異常などがある赤ちゃんを授かった妊婦さんの場合は、検査を受けることで不安要素が減る可能性があります。
出生前診断を検討している人は、早めにかかりつけの産婦人科医に相談したり、検査を受けられる施設を紹介してもらったりしましょう。
出生前診断には問題点もあるの?
高齢妊娠・出産が増えていることもあり、お腹の赤ちゃんに先天性の異常がないかどうか気になる妊婦さんは多いとされています。
しかし、「出生前診断の結果、人工妊娠中絶をする人が増えるのではないか」など、倫理的な観点から検査を問題視する声もあります。
また、出生前診断を受けることで心の準備ができるケースもあれば、赤ちゃんに異常があることを知ってしまったがゆえに悩みが深くなることも考えられます。
出生前診断によって、高い確率で染色体異常などの可能性がわかるとはいえ、赤ちゃんに見られる異常にはさまざまあり、そのうち染色体異常が占める割合は約25%にしかすぎません(※4)。
出生前診断ですべての赤ちゃんの病気が明らかになるわけではない、ということもふまえたうえで、パートナーや家族と相談しながら検査を受けるかどうか検討する必要があるでしょう。
出生前診断にはリスクもあるの?
出生前診断のうち、確定的検査にあたる絨毛検査や羊水検査は、母体と赤ちゃんにわずかながら負担がかかります。
妊婦さんのお腹に注射針を刺すことによる流産リスクは、羊毛検査の場合は約0.3~0.5%、絨毛検査の場合は約1%あるとされます(※4)。
また、まれですが検査後に出血や破水、腹膜炎などの合併症を起こすことがあるのも、出生前診断の検査におけるリスクといえます。
出生前診断は専門医と相談し、よく理解したうえで検討しよう
今回ご紹介したように、出生前診断のための検査にはさまざまな種類があり、それぞれ受けられる時期や検査方法、費用などが違います。
検査への理解が深まれば、受けるかどうかの判断や、検査結果の受け止め方が変わってくるかもしれません。パートナーとともに専門の医師とよく相談し、遺伝カウンセリングを受けたうえで出生前診断を受けるかどうか検討していけるといいですね。
監修医師:産婦人科医 間瀬徳光
2005年 山梨医科大学(現 山梨大学)医学部卒。板橋中央総合病院、沖縄県立中部病院などを経て、現在は医療法人工藤医院院長。産婦人科専門医、周産期専門医として、産科・婦人科のいずれも幅広く診療を行っている。IBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)として、母乳育児のサポートにも力を注いでいる。
※1 出生前検査認証制度等運営委員会 一緒に考えよう、お腹の赤ちゃんの検査 「お腹の赤ちゃんの検査の種類」
※2 出生前検査認証制度等運営委員会 一緒に考えよう、お腹の赤ちゃんの検査「お腹の赤ちゃんが病気になる理由」
※3 出生前検査認証制度等運営委員会 一緒に考えよう、お腹の赤ちゃんの検査「NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)」
※4 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン産科編2020」pp.79-81
※5 医出生前検査認証制度等運営委員会 一緒に考えよう、お腹の赤ちゃんの検査「超音波マーカーの検査・コンバインド検査」
※6 出生前検査認証制度等運営委員会 一緒に考えよう、お腹の赤ちゃんの検査「母体血清マーカー検査」
※7 出生前検査認証制度等運営委員会 一緒に考えよう、お腹の赤ちゃんの検査「羊水検査」
※8 出生前検査認証制度等運営委員会 一緒に考えよう、お腹の赤ちゃんの検査「絨毛検査」