「赤ちゃんの夜泣きは放置すれば一晩で治る」
「ステロイドは赤ちゃんに使わないほうがいい」
etc.
育児をしていてこのような噂を聞いたことはありませんか?
テレビやネット、先輩ママやおじいちゃんおばあちゃん、育児をしていると、いろいろなところから育児にまつわる噂が入ってきます。しかし、これらの噂、信じていいものなのでしょうか。
今回は「夜泣きは放置で治る」「ステロイドは危険」など、まことしやかにささやかれている7つの噂について、その真相を小児科医の先生に確認してみました。
【そのギモン、私が答えます】
小児科/高座渋谷つばさクリニック 武井智昭先生
日本小児科学会専門医。2002年、慶応義塾大学医学部卒。神奈川県内の病院・クリニックで小児科医としての経験を積み、現在は神奈川県大和市の高座渋谷つばさクリニックに院長として勤務。内科・小児科・アレルギー科を担当しています。感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として診療を行っています。
1. 赤ちゃんの夜泣きは放置すれば治る?
2. ステロイドを赤ちゃんに使うのは危険?
3. 牛乳を赤ちゃんに飲ませると、カルシウムが排出されて危険?
4. エアコンの効いた部屋で育てると代謝機能が育たない?
5. スマホの画面を見せるのは良くない?
6. 泣いたときにすぐ抱っこすると甘え癖がついて良くない?
7. ミルク育児だと赤ちゃんが太る?
赤ちゃんの夜泣きは放置すれば治る?
数年前、TVで「赤ちゃんの夜泣きは1度だけ放置すれば、次の日から夜泣きがなくなる」ということが紹介され、話題になりました。夜泣きを放置するだけで治るなんてあり得ることなのでしょうか?
うーん…、全ての赤ちゃんに当てはまるかは疑問です。次の日は疲れて夜泣きしないという、短期的に成功することはあるかもしれません。しかし、そのまた次の日からは夜泣きが復活することもあるんじゃないかと思いますね。
ーそもそも、夜泣きを減らす方法はあるんでしょうか?
あくまで私の経験ですが、昼間赤ちゃんと積極的に触れ合っていたり、抱っこしていた時間が長いほうが、夜泣きが少ないような気がします。赤ちゃんの精神が安定しているほうが夜泣きは少ないと思いますよ。
ーなるほど…。赤ちゃんの夜泣きは「寂しさ」などから来るんでしょうか?
もっとざっくりと「快/不快」の「不快」という感情から起きていると思います。発達の段階にある赤ちゃんにおいて「一日で夜泣きが治る確実な方法」なんてないと思いますよ。
赤ちゃんの夜泣きは一晩放置すれば治る?
→赤ちゃんの夜泣きを放置して全ての赤ちゃんの夜泣きが治まるかどうかは疑問。赤ちゃんの精神が安定することで夜泣きが少なくなることもある。
ステロイドを赤ちゃんに使うのは危険?
ーかゆみなど、皮膚のトラブルで処方されることがあるステロイド。「副作用がある」という噂を聞いたことがある人も多く、赤ちゃんに使うのを心配しているママもいます。実際、ステロイドが入っている薬は赤ちゃんに使わないほうがいいのでしょうか?
正しい条件で使うのであれば、使っても問題ないですよ。
ー「正しい条件」とは何でしょう?
「なあなあで使わないこと」と、「適切な強さの薬を使うこと」です。
ーひとつずつ詳しく教えてください。「なあなあで使わないこと」というのはどういう意味ですか?
症状が良くなってきたら、使用回数を減らすか、薬の強さを変えます。例えば、毎日塗っていたものを、2日に1回に減らすとか。症状が良くなっているにも関わらず、2週間以上なあなあで使い続けると、副作用が現れたり、治りにくくなることがあります。
「そろそろ塗らなくてもいいかな」と思ったら、医師に相談して使う頻度を見直しましょう。
ーそうなんですね。では、「適切な強さの薬を使うこと」とはどういう意味でしょう?
塗り薬によって、ステロイドが含まれている量が違うんです。そのため、症状にあったランクの薬を使うのがいいでしょう。
ーその「ランク」ですが、私たちはどうやって調べればいいのでしょう?
薬を処方してくれる医師に聞くのが一番早いでしょう。症状に対してちょうどいい強さかどうか教えてくれるはずです。
ステロイドを赤ちゃんに使うのは危険?
→医師の判断のもと、適切な強さの薬を適切な頻度で使えば大丈夫。
牛乳を赤ちゃんに飲ませると、カルシウムが排出されて危険?
ーネット上の記事で、「赤ちゃんに牛乳を飲ませると体内のカルシウムが排出されて怪我をしやすくなる」というものがありました。これは本当でしょうか?
牛乳を飲ませることでカルシウムが排出されて、怪我をしやすくなるということはないと思いますね。
ーでは、赤ちゃんに牛乳を飲ませても大丈夫ということでしょうか?
いえ、牛乳はミネラルのバランスが母乳や粉ミルクと違うので、あまり飲ませないほうがいいと思います。
そもそも、厚生労働省が発表している「授乳・離乳の支援ガイド」でも、赤ちゃんに飲み物としての牛乳を与えるのは、「1歳を過ぎてからが望ましい」としています(※1)。
ー赤ちゃんは母乳かミルクで十分ということですね。
はい。それに、赤ちゃんの場合は、牛乳アレルギーも心配です。赤ちゃんに牛乳を飲ませるのは、加熱した牛乳を使った離乳食をクリアし、1歳を過ぎてからがいいでしょう。
牛乳を赤ちゃんに飲ませると、カルシウムが排出されて危険?
→飲ませすぎなければ大丈夫と考えられる。ただし、加熱した牛乳を材料に使った離乳食をクリアして、1歳をすぎるまでは飲ませない方がいい。
エアコンの効いた部屋で育てると代謝機能が育たない?
ーここ数年、夏は特に気温が高いですよね。熱中症対策でエアコンをつけている家庭も多いと思います。しかし、赤ちゃんの部屋にエアコンをつけていると、汗などの代謝機能が育たなくなるなんて噂も…。これは本当でしょうか?
確かに、体温調節の機能は、暑いところで汗をかくことによって育つと言われています。そのため、クーラーの効いた部屋に居続けると代謝機能が育ちにくいということはあるかもしれません。
ーそうなんですね。とはいえ、冷房をつけないと熱中症も心配です。クーラーを入れつつ、代謝機能を育てる方法はあるのでしょうか?
代謝機能は体温調節の機会が多ければ育つので、温度差がある他の部屋と涼しくした部屋を行き来する機会があれば、大丈夫でしょう。そのため、全ての部屋にエアコンを入れるのではなく、入れる部屋と入れない部屋を作りましょう。
ーちなみに、部屋のエアコンの設定温度はどれくらいがいいのでしょうか?
病児保育などでは、冷房なら26〜27℃、暖房なら20〜21℃を基準にしているところが多いようです。ただし、赤ちゃんに風を直接あてることは控えてください。
エアコンの効いた部屋で育てると代謝機能が育たない?
→可能性としてはあり得る。温度差がある他の部屋と行き来しよう。
スマホの画面を見せるのは良くない?
ーこれは現代の育児ならではの噂ですが、赤ちゃんにスマホを見せると、目が悪くなったり、脳の発達に悪影響がある、とも言われています。これについてはどうでしょうか?
どうしても泣きやまないときなど、短時間なら問題ないと思います。
ー「短時間」というと、具体的にはどれくらいでしょうか?
目安としては、5分以内というところでしょうか。1時間や2時間と長時間になると、ブルーライトが目に与える影響も心配です。
ー親としては、赤ちゃんが泣きやまなかったり、寝付かなかったりすると、つい「泣き止み動画」を見せたくなってしまいます。
そうですよね。気持ちはわかります。5分間スマホを見せても赤ちゃんが泣きやまない場合、スマホはストップし、家の中を抱っこでうろうろするなど、別の解決策を取りましょう。
スマホの画面を見せるのは良くない?
→泣き止ませるために5分間だけなど、目的があって短時間なら問題ないと考えられる。
泣いたときにすぐ抱っこすると甘え癖がついて良くない?
ーおじいちゃん・おばあちゃん世代から、よく言われる育児アドバイスとして「泣いたときにすぐ抱っこすると癖がついて、甘えん坊になる」というものがあります。
たしかに、昔は良く言われたことですね。でも、実際はそんなことありません。赤ちゃんが泣くのは、「お腹が空いた」や「部屋が暑い」など、何かをアピールしているとき。だから放っておくのは心の成長によくないです。
ーそもそも「甘え癖がつくと悪い」とされているのってなんででしょうね…。
時代背景が関係あるのかもしれませんね。昔は一家族に子供が4人や5人いるケースも少なくありませんでしたよね。そんな状況でいちいち抱っこしていたら家事が進まないから、ということもあったんじゃないでしょうか。
泣いたときにすぐ抱っこすると甘え癖がついて良くない?
→泣いたときにすぐ抱っこしても、甘えん坊になるとは限らない。
ミルク育児だと赤ちゃんが太る?
ーミルク育児のママが特に心配に思うのが、「ミルク育児だと太りやすい」という噂です。
確かに生後3〜4ヶ月の月齢くらいまでは、ミルク育児の赤ちゃんの方が、母乳育児の赤ちゃんに比べて、体重増加の傾向はあります。
ーこの噂は本当なんですね…!
ただ、離乳食が始まると、ミルクか母乳かよりも、ママやパパの遺伝の方が体格に色濃く出るようになります。そのため、一時的には体重は大きくなりますが、長期的に見るとあまり関係ないといえますね。
ー3〜4ヶ月の月齢の時点で、赤ちゃんの体重が成長曲線を超えていると、心配に思うママもいるかもしれません。でも、あまり気にしなくても大丈夫ということですね?
そうですね。乳児期はむしろ体重を増やすことが重要ですから。あまり心配しすぎない方がいいと思いますよ。
ミルク育児だと赤ちゃんが太る?
→生後3〜4ヶ月まではその傾向があると言われているが、それ以降は遺伝によってさまざま。
噂は噂。情報に踊らされないように注意!
さて、「赤ちゃんの夜泣きは放置すれば一晩で治る」など、気になっていた噂の真相はわかりましたか?
育児についての情報は世の中に溢れており、また、両親や義両親から「こうしたほうがいいよ」と昔の育児の方法を勧められるというケースもあるでしょう。
しかし、育児の方法も日々進化しており、どれが正しい情報で、どれが誤った情報かの判断はなかなか難しいものです。
もし、「これはどっちだろう?」と思うものがあれば、健診のときなどでも、かかりつけの医師に質問してみてくださいね。
※1 厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」(2019改訂版)