減少傾向にあるといわれる現代人の睡眠時間。これは大人に限った話ではなく、子どもも同じように、十分な睡眠時間を確保できていないケースが増えてきています。それでは、子どもは睡眠をどれくらいとれば良いのでしょうか。
今回は子どもの睡眠時間が不足したときの弊害や、年齢別の理想の睡眠時間などについてご紹介します。
子どもの睡眠時間が不足した場合の弊害は?
日本小児保健協会によると、1980年と2010年の子どもを比較した場合、22時以降に就寝する子どもの割合が増えており、睡眠時間も減少傾向にあります(※1)。
睡眠時間が減り、睡眠不足が起きると、以下のような弊害が起こる可能性があります。
成長ホルモンが十分に分泌されない
子どもの身体の成長にかかせない成長ホルモンは、睡眠中、特に深夜に盛んに分泌されます。
睡眠の質が悪かったり、睡眠時間自体が短かったりすると、成長ホルモンが十分に分泌されず、子どもの成長に影響が及ぶ可能性があります。
肥満になりやすい
健康な人でも4時間睡眠をたった2日続けただけで、食欲を抑えるホルモンの分泌が減り、逆に食欲を高めるホルモンの分泌が増えます(※2)。
また、脂肪を分解する働きを持つホルモンの分泌量が少なくなって、脂肪が体に溜まりやすくなるともいわれています。
国立保健医療科学院の報告によると、3歳のときの睡眠時間が11時間以上である子どもが中学1年生までに肥満になる確率は12.2%であったのに対して、睡眠時間が9時間台の子どもは15.1%、9時間未満の子どもでは20.0%です(※3)。
睡眠時間が短くなるほど肥満の発生率が上昇しているので、健康のためにも十分に眠れるようにしたいですね。
記憶力が悪くなる
脳は寝ている間に日中に学んだことを整理して、記憶として定着させます。
睡眠時間が不足して睡眠の質が落ちると、記憶の定着が悪くなって、学業成績が伸び悩む原因になることも。
また、睡眠不足によって日中の眠気が強くなり、授業中にボンヤリしてしまい、日々の学習自体に悪影響が出てしまいます。
アメリカの高校生を対象にした調査では、就寝時刻の遅い子どもほど、また睡眠時間の短い子どもほど成績が悪いという結果が出ています(※3)。
イライラしやすくなる
睡眠不足によって自律神経が乱れ、興奮作用を持つ交感神経が優位になると、脳がリラックスできない状態が続きます。
脳のストレスになり、イライラしやすくなって、結果的に怒りやすく落ち着きがない子どもになってしまいます。
免疫力が低下する
睡眠が十分にとれていないと、疲労がたまることで免役力が下がります。
風邪をひきやすい、熱を出しやすいなど、健康を害しやすくなってしまいます。
子どもの理想の睡眠時間は?
睡眠不足による悪影響を防ぐには、子どもはどれくらい眠ればよいのでしょうか。「未就学児の睡眠指針」では以下のような目安が示されています(※4)。
新生児期:16〜20時間
生まれたばかりの赤ちゃんは、昼夜を問わず短いサイクルで寝たり起きたりを繰り返しています。
「眠る」ということに慣れていないため浅い睡眠となっていて、物音や光などの刺激で簡単に目を覚ましてしまいます。
生後3ヶ月:14~15時間
新生児期よりも少し睡眠時間が短くなり、3〜4時間連続して睡眠をとるようになってきます。
深い眠りにつくことも増えてきましたが、浅い眠りの割合の方が高いため、目を覚ましやすくなっています。
睡眠リズムが整ってくる生後4ヶ月頃までは、昼夜が逆転した生活サイクルになることもありますが、赤ちゃんのペースに寄り添ってあげましょう。
生後6ヶ月:13〜14時間
夜に6〜8時間まとまって長く寝てくれるようになります。2〜4時間の昼寝を1〜2回とり、昼夜の区別がはっきりとしてきます。
夜泣きに悩まされる人も増えてくる時期なので、寝る前はスキンシップをしっかりとるなどして、夜泣き対策もできるといいですね。
1~3歳:11~12時間
昼寝は1日に1.5〜3.5時間を1回程度と、時間も回数も少なくなっていきます。昼寝の時間を決めて、睡眠リズムが確立するようにサポートしてあげましょう。
3~6歳:10~11時間
昼寝の時間は更に少なくなり、大人と同じような睡眠サイクルになります。日中に無理にお昼寝をさせると、夜の寝つきが悪くなって睡眠不足になるケースも。
夜にしっかりと眠れるように、子どもの様子を見ながらお昼寝させてあげてくださいね。
6~12歳(8~10時間)
小学校に入学すると、塾や習い事などにも通うようになって、夜型の生活スタイルになりがちです。
8~10時間の夜の睡眠を確保できるように、早い時間に寝られる環境を整えてあげてください。
子どもの睡眠の質を上げる方法は?
子どもの睡眠時間を確保するのと同じくらい、睡眠の質を高めることも大切です。睡眠の質が低いと、いくら長時間寝ても日中に眠たくなることも。
子どもの眠りの質を上げるために、以下の方法を試してみてください。
朝日を浴びて体内時計を整える
人間の体内時計の周期は、1日の周期の24時間よりも少し長いといわれています(※5)。そのため、実際の時刻と体内時計が毎日少しずつズレて、睡眠リズムが乱れてしまうことがあります。
朝日を浴びることで、体内時計はリセットされてズレがなくなるとされています。毎日起きたらカーテンを開けて、朝日を浴びるようにしましょう。
就寝時間の前に眠りやすい環境を整える
夜も明るい光を浴び続けていると、脳が落ち着かず、寝つきにくくなります。
遅くても就寝の1時間ほど前からは部屋を暗めにし、ブルーライトを発する電子機器の使用も控えて、眠りやすい環境を整えましょう。
昼寝の時間を調整する
夕方近くに昼寝をしてしまうと、夜に頭が冴えて、眠れなくなってしまいます。15時以降の昼寝は、夜の睡眠に影響する可能性があるので、12~13時あたりに昼寝をさせてあげましょう。
子どもの睡眠時間を確保して健やかな成長を
子どもは大人をお手本にして成長していきます。ママやパパが夜型の生活スタイルで過ごしていると、子どもも自然と同じようなスタイルになりがちです。
子どもの睡眠時間をきちんと確保してあげるためには、まずママやパパが生活サイクルを見直すことが大切です。
家族みんなの健康を守るためにも、ぜひ家族一丸となって、睡眠時間の改善に取り組んでくださいね。
監修医師:小児科 武井 智昭
日本小児科学会専門医。2002年、慶応義塾大学医学部卒。神奈川県内の病院・クリニックで小児科医としての経験を積み、現在は神奈川県大和市の高座渋谷つばさクリニックに院長として勤務。内科・小児科・アレルギー科を担当しています。感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として診療を行っています。
※1 日本小児保健協会「幼児健康度に関する継続的比較研究」
※2 厚生労働省e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」
※3 国立保健医療科学院「子どもの睡眠」
※4 厚生労働科学研究費補助金 未就学児の睡眠・情報通信機器使用研究班「未就学児の睡眠指針」
※5 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト「体内時計」