妊娠初期は、体や気持ちの変化に戸惑う人も多いのではないでしょうか。妊娠初期の体調には個人差がありますが、生活面や食事などで注意したい点は基本的に共通しています。
今回は、妊娠初期に気をつけたい運動・食べもの・生活習慣・日頃の行動について、基本となるポイントをまとめました。
妊娠初期ってどんな状態?
妊娠初期とは、妊娠0週0日から15週6日までの時期を指します。妊娠0~1週の2週間は実際に妊娠している状態ではないので、「妊娠初期」に含むこともあれば「妊娠超初期」と分けて表すこともあります。
妊娠初期は、体にさまざまな変化が現れます。子宮の大きさは、妊娠2ヶ月頃には鶏の卵の倍くらいに、妊娠3ヶ月頃は握りこぶしほどになります(※1)。
妊娠によるホルモンバランスの変化などが原因で、次のようなマイナートラブルが現れることもあります(※2)。ただし、症状の現れ方や程度は個人差が大きいです。
妊娠初期に起こりやすいマイナートラブル
● つわりの症状が現れる
● 体がだるい・眠い・熱い
● 頭痛がする
● めまい・立ちくらみがする
● おりものが変化する
● 乳房が張る・体に痒みがでる
● イライラして気持ちが落ち着かない
● 便秘、下痢、頻尿になる
● 肌が荒れやすくなる
● 唾液が増える・減る
● 味覚が変わる
● 鼻詰まり・声のしゃがれが起こる など
妊娠初期の運動で注意することは?
妊娠初期はまだ体が安定していないため、運動はあまりおすすめできません。しかし、体を動かさないとストレスが溜まるという人もいますよね。
妊婦健診で医師の許可が出れば、手足を動かすといった軽い運動や妊娠初期でもできるストレッチなどを中心に行うといいでしょう。
ただし、ちょっとでも気分が悪かったり、いつもと体調が違うと感じたりしたら、すぐに運動を中断して休むようにしてくださいね。
妊娠初期を過ぎて妊娠5ヶ月頃になると体調が落ち着く傾向にあるため、妊娠経過が順調で医師の許可がおりれば、マタニティヨガやマタニティスイミングといった有酸素運動を行うことができますよ。
妊娠初期の食べ物で注意したいことは?
妊娠初期はつわりで食欲がなかったり気持ち悪かったりして、思うように食べられないこともあります。そんなときは無理をせず、食べられるものを食べたいときに食べられる量だけ食べれば十分です。
食事がほとんどできず栄養素が偏ることで、赤ちゃんの成長に問題が出るのではと不安になるかもしれません。しかし、この時期の赤ちゃんはまだ小さく、ママの体に蓄えられた栄養で育つので心配はいりませんよ(※2)。
また妊娠中は、食べる際に気をつけなくてはいけない食材がいくつかあります。以下の食材は、「妊娠中に絶対に食べてはいけない」と禁止されているわけではありませんが、リスクとなる要因があるため、避けておいたほうが無難です。
生まれてくる赤ちゃんとママ自身のために、妊娠中は以下のものを食べるのは我慢しましょう(※3,4,5,6,7)。
妊娠中は避けたい主な食べ物
● 刺身や貝類など、食中毒のおそれがあるもの
● 殺菌されていない乳製品や生卵など、サルモネラ菌発生の可能性があるもの
● 生肉や生ハムなど、リステリア食中毒やトキソプラズマに感染しやすいもの
妊娠中は摂取量に気をつけたい主な食べ物
● カップラーメンやインスタント食品など、添加物や塩分が多く含まれているもの
● まぐろやカジキなど、水銀が多く含まれているもの
● うなぎやレバーなど、動物性のビタミンA(レチノール)が豊富に含まれているもの
● コーヒーや紅茶など、カフェインを含む飲みもの
妊娠初期の生活習慣で気をつけることは?
妊娠初期は、体に影響を及ぼす可能性のある生活習慣を見直すことも大切です。いままで当たり前にしていたことが、赤ちゃんや母体に悪い影響を与えるおそれもあるので注意しましょう。
以下を参考に、生活習慣に気をつけてくださいね。
飲酒をしない
妊娠中に飲酒をすると、赤ちゃんに「胎児性アルコール・スペクトラム障害」と呼ばれる以下のような症状を引き起こす可能性があります(※8)。
● 催奇形性(妊娠初期)
● 発達遅延
● 中枢神経系の障害(脳の形態異常、頭蓋骨の成長不全、難聴など)
● 特異的な顔貌(薄い上唇、平坦な人中、平坦な顔面中央)
● 知的能力障害
● ADHD、うつ病、依存症など
少量でも、妊娠中のどの時期でも、赤ちゃんに影響を及ぼすおそれがあるため、妊娠がわかった時点でお酒はやめましょう。
タバコをやめる
タバコは子宮や胎盤への血液量を減少させるため、赤ちゃんの低酸素状態や、胎盤の老化・機能低下を引き起こし、以下のようなリスクを高めます(※9)。
● 常位胎盤早期剥離
● 前置胎盤
● 流産
● 早産
● 出生体重・身長の低下
● 赤ちゃんの発育遅延
● 乳幼児突然死症候群(SIDS)
他人のタバコによる副流煙(受動喫煙)も、赤ちゃんの発育に悪影響があるため、家族に喫煙者がいる場合は禁煙してもらうか、目の前では絶対に吸わないようにしてもらってくださいね。
タバコを吸っている人や喫煙所にも近づかないようにしましょう。
薬やサプリメントの服用は医師に確認する
妊娠中の薬の服用には注意が必要です。飲む時期や薬の種類・量によっては、赤ちゃんに奇形が生じたり発育に悪影響を及ぼしたりするリスクがあります(※2)。
特に、赤ちゃんのさまざまな器官が形成される妊娠2ヶ月頃(4週0日〜7週6日)は、薬の影響を最も受けやすい「絶対過敏期」と呼ばれます(※2,10)。
妊娠4週頃は、まだ妊娠に気づいていないこともありますが、妊娠がわかった時点で、自己判断で市販薬を服用するのはやめてください。妊娠前から継続的に飲んでいる処方薬があれば、妊娠が判明したタイミングで一度やめて医師に相談しましょう。
また、サプリメントも妊娠中に服用してはいけないものがあります。薬と同様に、妊娠がわかったタイミングで医師に確認するようにしてください。
感染症対策をする
妊娠中は免疫力が低下しやすいので、体を冷やさないことや睡眠を十分にとることなどを心がけて、感染症にかからないよう注意してください。
妊娠中の薬の服用は赤ちゃんに影響が及ぶおそれがあるため、感染症にかかっても飲める薬が限られることも覚えておきましょう。
妊娠20週までに「風疹」に感染すると、赤ちゃんに先天性心疾患、白内障、難聴といった症状があらわれる先天性風疹症候群になる可能性があります(※1,11)。
妊娠中は風疹の予防接種を受けられないため、抗体がない・少ない妊婦さんは、人込みをできるだけ避ける、マスクをする、家族に予防接種を受けてもらうといった予防を徹底してください。
また、猫の糞や鳥類に寄生するトキソプラズマに感染すると、赤ちゃんが低体重や水頭症、精神・運動機能障害などを発症する先天性トキソプラズマ症を引き起こすリスクがあります(※1,12)。
ペットの糞尿の処理は家族に任せるか必ず手袋をするよう気をつけて、生肉は必ず加熱して食べるようにしましょう。
妊娠初期の行動で気をつけることは?
妊娠初期は、体に負担がかかる行動は避けましょう。妊娠経過によっては安静が必要なケースもあるので、医師の指示を必ず守ってください。
例えば、引っ越しは、重たい荷物を持ったり、立っている時間が長くなったりするので注意が必要です。
もし引っ越しを検討している場合は、できれば妊娠初期に比べて体調が落ち着く中期まで延期しましょう。
どうしても必要な場合は、大きな作業はパートナーや家族に任せるなど、事前に対策をしっかり練っておけるといいですね。
妊娠初期は眠気も強くなりやすいので、車の運転にも気をつけてくださいね。
妊娠初期の注意点を守って健康的に過ごそう
妊娠初期に注意したいことはたくさんありますが、あまり気にしすぎてストレスを感じてしまわないように、絶対にしてはいけないこと以外は適度に行いましょう。バランスを取ることが難しいこともあるので、疑問や不安を感じたときは、かかりつけの医師や助産師に相談してみてくださいね。
生まれてくる赤ちゃんとママの体を第一に、妊娠初期を健康的に過ごせるといいですね。
監修医師:産婦人科医 藤東 淳也
日本産科婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医、細胞診専門医、がん治療認定医、日本がん治療認定医機構暫定教育医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医で、現在は藤東クリニック院長。専門知識を活かして女性の快適ライフをサポートします。
※1 株式会社メディックメディア『病気がみえるvol.10 産科 第4版』pp.6-7,87,208-210,223
※2 メジカルビュー社『プリンシプル産科婦人科学 2産科編 第3版』pp. 204-208,765,766
※3 厚生労働省「リステリアによる食虫毒」
※4 国立感染症研究所「トキソプラズマ症とは」
※5 厚生労働省「これからママになるあなたへ お魚について知っておいてほしいこと」
※6 内閣府 食品安全委員会「ビタミンAの過剰摂取による影響」
※7 食品安全委員会「食品中のカフェイン」
※8 厚生労働省 e-ヘルスネット「胎児性アルコール・スペクトラム障害」
※9 厚生労働省 e-ヘルスネット「女性の喫煙・受動喫煙の状況と、妊娠出産などへの影響」
※10 日本産婦人科医会「妊婦の薬物服用」
※11 NIID 国立感染症研究所「風疹Q&A(2018年1月30日改訂)」
※12 NIID 国立感染症研究所「トキソプラズマ症とは」