「羊水塞栓症」とは、妊娠中に起こる重篤なトラブルのひとつです。突然起こるものなので予測することは難しく、発症はごくまれですが、誰にでも起こり得るものなので症状などを知っておきたいですよね。
今回は、羊水塞栓症とはどういうものか、原因や症状、治療法についてご説明します。
羊水塞栓症とは?
羊水塞栓症(ようすいそくせんしょう)とは、赤ちゃんの皮膚などの組織や細胞を含んだ羊水が母体の血管内に入り込み、強いアレルギー反応であるアナフィラキシーのような状態を引き起こす疾患です(※1)。
ほとんどが破水後に発症し、母体の心停止など重篤な症状を引き起こし、少なくとも約20%が命を落とすとされています(※2,3)。
発症頻度はごくまれですが、2010〜2020年の妊産婦死亡原因の約11%を占めています(※4)。
羊水塞栓症を引き起こす原因は?なにがリスクになる?
羊水には胎児の父親由来のたんぱく質が含まれているため、母体の血液内に入り込むことで免疫反応が起こります(※5)。羊水塞栓症は、この免疫が過剰に働くことで起こると考えられています。
羊水塞栓症を起こしやすくするリスクとしては以下が挙げられます(※3)。
● 母体が35歳以上
● 誘発分娩
● 帝王切開
● 吸引分娩
● 鉗子分娩
● 羊水過多症
● 前置胎盤
● 胎盤早期剥離
● 子癇
頻度としては極まれであることは変わりませんが、頭位における帝王切開は自然分娩よりも羊水塞栓症を起こす確率が高くなっています(※3)。
羊水塞栓症の症状は?
羊水塞栓症は急激に発症するのが特徴です。妊娠中あるいは分娩後12時間以内に以下のような症状が現れます(※5)。
● 呼吸困難
● 頻脈
● 胸痛
● 頻呼吸
● 低血圧
● 大量出血
急激に悪化するのが特徴で、発症後から短時間で死に至るおそれがあります。命が助かっても、長期にわたる合併症が発症することもあります。
羊水塞栓症の赤ちゃんへの影響は?
羊水塞栓症が赤ちゃんに与える影響については、はっきりとわかっていません。
羊水塞栓症を発症する兆候として胎児機能不全を起こすことがあるため、胎児に悪影響を及ぼしている可能性があるともいわれています。
分娩中に発症した場合には、母体の治療も優先されるため、赤ちゃんに影響が及ぶおそれがあります。
羊水塞栓症の診断と治療法は?
羊水塞栓症で起きるような症状が現れたら、意識レベルや脈拍、血圧、心電図などがチェックされ、輸血や呼吸管理などが行われます。
分娩中であれば緊急帝王切開に切り替え、赤ちゃんと母体どちらも救えるように治療が行われます。
羊水塞栓症のリスクを知っておこう
羊水塞栓症は、妊娠中にできる有効な予防法がありません。また発症した際には、高度な医療技術が要求される難しい疾患です。発症率は高くなく、過度に心配する必要はありません。日々健康に過ごして、安産になるように心がけてくださいね。
監修医師:産婦人科医 間瀬徳光
2005年 山梨医科大学(現 山梨大学)医学部卒。板橋中央総合病院、沖縄県立中部病院などを経て、現在は医療法人工藤医院院長。産婦人科専門医、周産期専門医として、産科・婦人科のいずれも幅広く診療を行っている。IBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)として、母乳育児のサポートにも力を注いでいる。
【参考文献】
※1 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン 産科編2020」
※2 MSDマニュアル プロフェッショナル版「羊水塞栓症」
※3 日本産婦人科・新生児血液学会「羊水塞栓症」
※4 日本産婦人科医会「母体安全への提言2020」
※5 日本産婦人科医会「羊水塞栓症」