妊娠中はさまざまなトラブルがつきものです。様子を見ているうちに自然と治まることもあれば、病院で適切な対処が必要になる場合もあり、日々の体の変化が気になりますよね。特に、妊娠中の不正出血は、時期によって母体や胎児の命にかかわることもあるので注意が必要です。
そこで今回は、妊娠中の不正出血の原因を、妊娠初期・中期・後期にわけてご説明します。
妊娠中に不正出血が見られるのは危険なの?
妊娠する前なら、月経(生理)で定期的に性器からの出血があります。これは、成熟した子宮内膜が剥がれ落ちて起こる自然な現象です。一方で、月経以外の原因で出血することを「不正出血」と呼び、子宮内の腫瘍や炎症、感染症などが関係していることもあります。
妊娠中は生理が止まっているので、もし出血があれば「不正出血」と考えられます。
妊婦さんは、妊娠していないときに比べて体内の血液循環量が増えるため、ちょっとした刺激で出血することもあります(※1)。しかし、何らかのトラブルが原因で不正出血が起きている可能性もあるので、注意が必要です。
出血する時期によって原因は違ってくるため、以下でそれぞれの違いをご説明します。
妊娠初期(妊娠16週未満)の不正出血の原因は?
妊娠した直後、いわゆる妊娠超初期には、少量の出血や腹痛が起きることがあります。たとえば、排卵するときに現れる「排卵出血」、受精卵が子宮内膜に着床するときに起こる「着床出血」などです。これらはホルモンバランスの変化によって起こる現象なので、過度な心配はいりません。
しかし、妊娠していることがわかったあと、妊娠初期に出血が起こった場合は、主に以下の原因が考えられます。
切迫流産・流産
妊娠22週未満で妊娠が継続できなくなることを「流産」といい、流産の一歩手前の状態が「切迫流産」です。
どちらの場合も、性器からの不正出血が見られるのが一般的です。
胞状奇胎
「胞状奇胎(ほうじょうきたい)」とは、染色体異常により、胎盤や卵膜の元となる「絨毛細胞」という細胞が異常増殖した状態です。
絨毛細胞が異常増殖すると、水泡状になって子宮内を覆い尽くします。胞状奇胎になると妊娠を継続することはできず、徐々に出血などの自覚症状が見られるようになります。
異所性妊娠(子宮外妊娠)
本来であれば子宮内膜に着床するはずの受精卵が、子宮内膜以外の場所に着床して根をはってしまうのが「異所性妊娠(子宮外妊娠)」です。
妊娠を継続することはできず、放っておくと受精卵が成長し、お腹の中への出血や下腹部の痛みなどを引き起こします。週数が進むほど出血量が増えて痛みもひどくなります。
絨毛膜下血腫
着床した受精卵は、胎盤を作るために絨毛と呼ばれる組織を子宮内膜へ伸ばします。この過程で子宮内膜の血管が壊されて出血し、血が固まってしまうのが「絨毛膜下血腫」です。
症状としてわずかに出血が見られ、血腫が大きくなると切迫流産や流産につながることもあります。
妊娠中期(妊娠16〜27週)の不正出血の原因は?
妊娠中期に不正出血が見られるときも、お腹の赤ちゃんに何らかのトラブルが起きているかもしれません。主に以下の原因が考えられます。
切迫早産・早産
妊娠22週以降に妊娠が継続できなくなることを、「早産」といいます。早産の一歩手前の状態が「切迫早産」です。
切迫早産・早産のときは、少量の出血や腹痛などが自覚症状として現れます。
前置胎盤
妊娠16週頃になると、胎盤はほぼ完成します。しかし、この胎盤が子宮口に近い場所にあると「前置胎盤」と呼ばれ、稀に出血が見られることがあります。
特に胎盤が子宮口を塞ぐようになっていると、出血量が多くなります。胎盤の位置次第で妊娠を継続できなくなるケースもあります。
ただし、日本産科婦人科学会によると、妊娠中期に前置胎盤の疑いがあった妊婦さんのうち、半数以上は最終的に前置胎盤ではない状態で出産を迎えています(※2)。一般的に、前置胎盤と確定診断を受けるのは妊娠後期(妊娠31週末まで)です。
子宮頚管無力症
「子宮頚管無力症」は、赤ちゃんが産まれるまで閉じているはずの子宮口が、陣痛がまだ来ていない段階で開いてしまうトラブルで、流産や早産を引き起こす可能性があります。
あまり自覚症状はありませんが、まれに不正出血を起こすことがあります。
常位胎盤早期剥離
常位胎盤早期剥離とは、赤ちゃんがまだお腹の中にいるうちに、胎盤が子宮の壁から剥がれてしまうことをいいます。赤ちゃんに十分な酸素と栄養が届かなくなったり、母体の血液が固まりにくくなったりするなど、母子ともに危険が及ぶ恐れがあります。
症状は重症度によりさまざまですが、動けなくなるほどの下腹部痛があり、お腹は板のように硬くなるほか、不正出血が見られることもあります。
妊娠後期(妊娠28週〜)の不正出血の原因は?
妊娠後期の不正出血は、切迫早産・早産や前置胎盤、常位胎盤早期剥離など、妊娠中期と同じ原因が考えられます。
特に、妊娠後期に頻繁にお腹が張ったり、石のように硬くなったりしているときは切迫早産の恐れもあるので、すぐかかりつけの産婦人科で相談しましょう。
妊娠37週以降は正期産に入り、赤ちゃんがいつ生まれても良い時期です。この時期の出血は体のトラブルではなく、「おしるし」と呼ばれる出産兆候の可能性があります。
お産が近づくと、子宮口が徐々に開いていき、赤ちゃんを包む卵膜と子宮壁の間にできたすき間から、わずかに出血が起きることがあります。これがいわゆる「おしるし」です。なお、おしるしがないままお産を迎える人もいます。
おしるしから陣痛までにかかる期間は人それぞれですが、1週間以内に陣痛が始まったという妊婦さんも多いので、心の準備をしておいてくださいね。
妊娠中に不正出血が続いたら病院へ
妊娠中に出血が見られたら、なんらかのトラブルが起きている可能性があります。異常がない場合もありますが、妊娠中は何があるかわからないので、注意しておくに越したことはありません。
妊娠中に出血があったら、「少量だから問題ないかな」などと自己判断はせずに、かかりつけの産婦人科医に相談してください。普段から、不正出血がどういう状態のときに受診すべきか、医師に確認しておきしょう。
【参考文献】
※1 日本産科婦人科学会「正常妊娠の管理」p.89
※2 日本産科婦人科学会「正常妊娠の管理」p.325