常位胎盤早期剥離とは?原因や発症率、症状は?

妊娠中に起こるトラブルのひとつに、「常位胎盤早期剥離」があります。発症頻度は比較的少ないものの、胎児と母体に危険が及ぶこともある疾患です。

今回は、常位胎盤早期剥離について、原因や発症率、症状、治療法などを説明します。

常位胎盤早期剥離とは?

「常位胎盤早期剥離」とは、通常は出産後15〜20分で自然にでてくる胎盤が、赤ちゃんが生まれる前に子宮から剥がれ落ちてしまうことです。

妊娠中に胎盤が剥がれると、子宮壁から出血し血腫が胎盤を圧迫するため、胎児にも母体にもリスクが及びます。

常位胎盤早期剥離の原因は?

常位胎盤早期剥離が起こる直接の原因はまだはっきりとわかっていません。これまでの事例からは、以下の要因があると発症リスクが高まる傾向があるとされています(※1,2,3)。

●過去に常位胎盤早期剥離になった
●妊娠高血圧症候群
●絨毛膜羊膜炎
●前期破水
●子宮筋腫
●多胎妊娠(双子など)
●羊水過多
●喫煙
●薬物中毒
●血栓関連の障害
●お腹の外傷(交通事故、外回転手術など)

常位胎盤早期剥離のリスクは?

常位胎盤早期剥離の母体と胎児へのリスクは、それぞれ次の通りです。

胎児へのリスク

胎盤が子宮から剥がれると、胎児への酸素と栄養の供給が止まってしまいます(※1)。

妊婦が救急車で病院に運ばれた時点で胎児が弱りきっていると、緊急帝王切開後に蘇生処置をしても赤ちゃんに脳性麻痺などの障害が残ることがあります。

重症例では、胎児死亡率(周産期死亡率)は30~50%です(※4)。

母体へのリスク

常位胎盤早期剥離によって子宮内で大量出血が起こると、出血で生じた血腫がさらに周囲の胎盤を剥がします。それによって、全身の血管内に小さな血栓ができる「DIC(播種性血管内血液凝固)」を引き起こす恐れがあります(※1)。

DICを発症すると子宮摘出や母体死亡につながることもあり、重症例での母体死亡率は1~2%です(※4)。

常位胎盤早期剥離の発症率や起きやすい時期は?

常位胎盤早期剥離の発症率は、妊婦の約100人に1人(0.5~1.3%)です(※1)。

この数字だけ見ると極めて珍しいように感じますが、切迫早産と診断される妊婦のうち10人に1人は常位胎盤早期剥離が含まれるので、決して稀な疾患とはいえません。

日本においては、常位胎盤早期剥離の約半分が妊娠30~36週に発症します(※1)。また、その週数で起きる早産の原因の5%を占めています。

常位胎盤早期剥離の症状は?痛みはある?

常位胎盤早期剥離が起こると、重症度により以下のような症状が現れます(※1)。

軽症(発症初期)の場合

● お腹が何となく張っている感じ
● 腰痛
● 少量の不正出血

重症の場合

● 動けないほどの急激な下腹部痛
● お腹が板のように硬くなる
● 少量の不正出血
● 出血性ショックによる顔面蒼白、貧血、血圧低下

上記の症状が同時に現れることもあれば、そうでないこともあります。また、発症初期の軽症の場合、下腹部痛は伴わない人もいます。

最初は軽症であっても急性早剥に陥る恐れもあるため、お腹の張り方がいつもと違う、少しでも出血があるといった場合は、すぐに産婦人科を受診してください。定期的に自分で胎動の確認を行うことも大切です。

常位胎盤早期剥離の治療方法は?

お腹の中の赤ちゃんが生きているときは、基本的には帝王切開で取り出します。妊婦の子宮口が全開で、帝王切開よりも早く取り出せそうな場合は、経腟分娩を選択することもあります(※1)。

出血によって生じた血腫が大きくなると、子宮筋層内に血液が入りこみ、分娩を終えたあとも出血が止まらず「弛緩出血」が起こりやすくなります。

止血が難しい場合は、母体の命を救うために状況に応じて動脈塞栓術や子宮摘出術といった手術が行われます。

常位胎盤早期剥離の予防方法は?早期診断は難しい?

常位胎盤早期剥離は原因が明確でないため、確実な予防方法はありません。また、自覚症状のない段階で超音波検査を行っても、4人に1人しか異常を見つけることができません(※1)。

ただ、日頃から次のようなことを意識しておくことで発症率の低下や早期診断につながると考えられます。

● 妊婦健診をきちんと受ける
● 血圧が高くなりすぎないよう管理をする
● お腹を強くぶつけるなど外傷があったらすぐ受診する
● 喫煙をしない
● 定期的に胎動をチェックする

常位胎盤早期剥離は、迅速な診断と対応が大切

常位胎盤早期剥離は、迅速な診断と治療をしなければ、胎児と母体の両方にリスクが生じます。下腹部痛や少量の不正出血など少しでも疑われる症状があったら、すぐにかかりつけの産婦人科に連絡し受診しましょう。

過去に常位胎盤早期剥離になった、前期破水があった、妊娠高血圧症候群と診断されたという人は、特に注意して過ごすようにしてくださいね。

監修医師:産婦人科医 藤東 淳也先生

産婦人科医 藤東淳也先生
日本産科婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医、細胞診専門医、がん治療認定医、日本がん治療認定医機構暫定教育医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医で、現在は藤東クリニック院長。専門知識を活かして女性の快適ライフをサポートします。

【参考文献】
※1 株式会社メディックメディア『病気がみえるvol.10 産科 第4版』pp.118-125, 318-319
※2 日本産婦人科医会 「(6) 常位胎盤早期剥離」
※3 メジカルビュー社『プリンシプル産科婦人科学 2 産科編 第3版』p.343
※4 日本産科婦人科学会「6.異常妊娠 8)常位胎盤早期剥離」

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