妊娠中にトキソプラズマに感染すると、お腹の赤ちゃんに悪影響を与える可能性があると耳にしたことがある人は多いかもしれません。トキソプラズマとはそもそもどんなもので、母体や胎児にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
そこで今回は、トキソプラズマについて原因や症状、治療法、検査方法などをご紹介します。
トキソプラズマとは?どんな症状が出る?
トキソプラズマとは小さな寄生虫のことで、感染して発症すると「トキソプラズマ症」と呼ばれます。
日本の妊婦さんの2〜10%は、今までにトキソプラズマに感染して抗体を持っているとされています(※1)。
感染しても健康な成人であれば80%の人には症状は現れず、約20%の人には軽い筋肉痛やリンパ節の腫れ、疲労感程度が現れますが、数週間で回復することがほとんどです(※2)。
トキソプラズマの感染経路は?
トキソプラズマの主な感染経路は、人間の口から体内に入り込む「経口感染」です。
トキソプラズマは、豚やヤギ、ネズミ、ニワトリなど、多くの哺乳類や鳥類などに寄生しながら成長し、成虫になると、最終的にネコ科の動物に寄生して繁殖します(※2)。
そのため、加熱が不十分な肉を食べたり、猫の糞に触れたりすると、トキソプラズマに感染する可能性があります。
また、トキソプラズマは土壌の中にも生息しており、ガーデニングなどで土に触れることでも感染することがあります。
妊娠中・妊娠前のトキソプラズマ症の胎児への影響は?
トキソプラズマに一度も感染したことがない人が、妊娠中にトキソプラズマに感染すると、胎盤を経由して胎児に感染を引き起こし、先天性トキソプラズマ症を引き起こす可能性があります(※2)。
しかし、妊婦さんが感染したからといって、必ず胎児に悪影響を与えるというわけではありません。
胎児への感染率や症状は、トキソプラズマへの感染時期によって以下のように変わってきます(※1)。
妊娠14週以下
胎児への感染率は10%以下ですが、流早産や死産など重症度が高くなります。
妊娠15〜30週以下
胎児感染率は約20%ですが、症状は軽度であることが多いです。
妊娠31週以降
胎児感染率は60〜70%と高くなりますが、症状が現れないことも多く、あらわれても軽度です。
トキソプラズマが胎児に感染したときの症状は?
妊婦さんのトキソプラズマが胎児に感染して先天性トキソプラズマ症を引き起こすと、生まれてくる赤ちゃんに下記のような症状がみられることがあります(※3)。
● 水頭症
● 視力障害
● 脳の異常
● 精神・運動障害 など
生まれたときに症状がなくても、成人するまでの間にけいれんや視力障害、精神・運動障害を起こすこともあります。
妊娠中のトキソプラズマ症の検査方法や治療法は?
妊娠中にトキソプラズマへの感染が疑われる場合、血液検査でトキソプラズマ抗体の有無を調べるのが一般的です。
抗体検査で陽性が出たらさらに詳しく検査し、感染が妊娠前であったか、あるいは妊娠中であったかを調べます。
妊婦中にキソプラズマに感染したと疑われる場合は、胎児への感染を防ぐために飲み薬を服用することになります。
妊娠中にトキソプラズマの抗体検査をすべき?
心配な場合は、一度トキソプラズマの抗体検査を受けることをおすすめします。
トキソプラズマ抗体の一般的な検査方法は血液検査で、費用は2,000~3,000円前後であることが多いです。
妊婦健診の採血でトキソプラズマの抗体を調べている可能性もあるので、母子手帳を確認してみてくださいね。
妊娠中のトキソプラズマ症の予防法は?
トキソプラズマは空気感染・経皮感染することはありません。そのため、以下のことを行えば、トキソプラズマに感染するリスクを減らすことができます。
肉はしっかりと加熱する
肉は70℃・10分以上加熱し、中までしっかり火が通るようにしてください。また、生肉を触る際は手袋の着用を心がけましょう。
生肉に触れたまな板や調理器具は、熱湯ですすいでしっかり洗うことが大切です。
猫の糞に触れない
猫を飼っている場合は、なるべく家族に猫のトイレ掃除をしてもらうようにしましょう。
もし自分でしないといけないときは、手袋を着用して処理の後は手をしっかり洗ってください。
猫の糞に含まれる卵が感染力を得るまでには約1日かかるとされているので、トイレの掃除は毎日行うことが望ましいです。
飼っている猫は食卓やキッチンには上がらせないようにして、室内で飼うようにしてくださいね。餌はドライフードや缶詰など市販のキャットフードをあげるようにしましょう。
土に触れない
土の中にトキソプラズマが潜んでいることがあるので、ガーデニングや畑仕事などの土を触る作業はできるだけ避けましょう。
畑仕事などでどうしても土を触らないといけないときは手袋を着用し、作業後は手を石けんやハンドソープでよく洗ってください。
また、生野菜や果物は土が残らないようしっかり洗い、皮を剥けるものは剥いて食べるようにしましょう。
トキソプラズマについて知っておこう
トキソプラズマに対する正しい知識を身につければ、必要以上に感染を恐れる必要はありません。予防のためにも、猫や土、生肉などに触れたあとは、しっかりと石けんやハンドソープで手を洗うようにしてくださいね。
監修医師:産婦人科医 間瀬徳光
2005年 山梨医科大学(現 山梨大学)医学部卒。板橋中央総合病院、沖縄県立中部病院などを経て、現在は医療法人工藤医院院長。産婦人科専門医、周産期専門医として、産科・婦人科のいずれも幅広く診療を行っている。IBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)として、母乳育児のサポートにも力を注いでいる。
【参考文献】
※1 日本医療研究開発機構成育疾患克服等総合研究事業「トキソプラズマ母子感染と出生児障害リスク」
※2 日本医療研究開発機構成育疾患克服等総合研究事業「トキソプラズマとは」
※3 日本医療研究開発機構成育疾患克服等総合研究事業「トキソプラズマ妊娠管理マニュアル」