猫を飼っていると妊娠中に「トキソプラズマ」に感染するリスクがあることをご存じですか。お腹の赤ちゃんを守るためにも正しい知識を持っておきたいですね。
今回は、トキソプラズマ感染による胎児への影響や、妊婦さんが猫と接するときに注意したいこと、猫以外の感染リスクなどについてご説明します。
トキソプラズマって?妊娠中に感染すると危険なの?
「トキソプラズマ」とは寄生虫のことで、ネコ科の動物が捕食物や土などを通じて感染し、フンを介して人間も感染するおそれがあります。
人間が感染するとトキソプラズマ症という病気を発症することがあります。ほとんどの場合は軽い風邪のような症状で治まり、なかには何も症状が出ない人もいます(※1)。
ただし妊婦さんが感染すると、胎盤を通じて胎児が「先天性トキソプラズマ症」になるおそれがあるため注意が必要です(※2)。
胎児がトキソプラズマに感染するとどうなるの?
胎児がトキソプラズマに感染すると、死産や流産、脳性麻痺、視力障害、精神・運動機能障害などが起きるおそれがあります(※2)。
生まれたときに症状がなくても、大人になるまでの間にけいれんや精神・運動機能障害などの症状が出てくることもあります。
ただし、妊婦さんがトキソプラズマに感染したからといって、必ずしも胎児が先天性トキソプラズマ症になるというわけではありません。
過去にトキソプラズマに感染したことがある人であれば、体内に免疫(抗体)ができているため、胎児に感染することはありません。
また、以下のように妊婦さんの感染の時期によって胎児への感染率や症状が変わってきます(※3)。
妊娠14週以下
胎児の感染率は10%以下ですが、流産や早産、死産のリスクが高く、胎児トキソプラズマ症の症状も重くなることが多いです。
妊娠15〜30週
胎児の感染率は約20%と上がりますが、症状は軽いことが多くなります。
妊娠31週以降
胎児の感染率は60〜70%と高くなりますが、症状がないか、あっても軽度です。
妊娠中、猫のお世話で注意することは?
妊婦さんとお腹の赤ちゃんがトキソプラズマに感染するリスクを考えると、妊娠中はなるべく猫に近づかないほうが安心です。
しかし、すでに猫と一緒に住んでいる場合は、大切な家族なのでそういうわけにはいきませんよね。
猫を飼っている妊婦さんはなるべく感染リスクを避けるため、以下の点に気をつけてお世話しましょう。
猫を外に出さない
猫が家の外に出て、ネズミや野鳥などをつかまえて食べたり、土をなめたりすることで、トキソプラズマに感染するおそれがあります。
猫の安全のためにも室内で飼うようにしましょう。
市販のキャットフードを与える
十分に加熱されていない生肉をエサとして与えるのは避け、ドライフードやウェットフード、缶詰など市販のキャットフードをあげるようにしましょう。
フンの処理は家族に頼む
妊婦さんが素手で猫のフンを処理したあとに手洗いが不十分であると、食事などを通して体内にトキソプラズマを取り込んでしまうことがあります。
妊娠中はできるだけ、猫のトイレ掃除はほかの家族にお願いしましょう。もし自分でフンを処理する必要があるときは、使い捨て手袋をつけて処理の後は手をよく洗ってくださいね。
トイレをこまめに掃除する
猫のフンに含まれるトキソプラズマは、感染力を持つのに1日かかるので、こまめにトイレ掃除をすることも感染予防につながります(※2)。
家族にお願いして、毎日トイレ掃除の時間を設けましょう。
妊娠中のスキンシップはなるべく控える
猫は全身を舐めるため、キスなどのスキンシップは控えておくと安心です。撫でたり、ブラッシングをしたりしたあとは、必ずしっかりと手洗いを行いましょう。
犬からもトキソプラズマに感染する?
猫を通じてトキソプラズマに感染する可能性があると聞くと、犬やハムスター、鳥などほかの動物にも気をつけたほうが良いのか気になりますよね。
ほかの動物の体内にもトキソプラズマが寄生していることがありますが、フンと一緒にトキソプラズマを体外に排泄するのはネコ科の動物だけです。
妊婦さんが犬などに触れてトキソプラズマに感染することはほとんど考えられませんが、スキンシップをしたときは必ず手洗いをするようにしましょう。
猫を飼っている場合は検査を受けたほうがいい?
猫を飼っている妊婦さんは、念のためトキソプラズマの抗体を調べる検査を受けておくと安心です。
費用は病院によっても異なりますが、2,000~3,000円ほどであることが多いようです。
もともと妊婦健診の血液検査の項目としてトキソプラズマの抗体検査が含まれている産院もあります。
もし母子手帳をみても検査をしていない場合は、かかりつけの産婦人科医に相談してみてくださいね。
検査で陽性反応が出たときは、詳しい検査を行っていつ感染したかを調べ、妊娠後のトキソプラズマ感染が疑われる場合は飲み薬で治療を行うことになります(※4)。
猫のお世話をするときに気をつけよう
妊娠中に猫からのトキソプラズマ感染を防ぐには、妊婦さん自身がフンの処理をしないなど、いくつかのポイントに気をつけてお世話しましょう。
大切な猫とお腹の赤ちゃん、両方のことを想いながら、穏やかな妊娠生活を送れるといいですね。
監修医師:産婦人科医 藤東 淳也
日本産科婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医、細胞診専門医、がん治療認定医、日本がん治療認定医機構暫定教育医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医で、現在は藤東クリニック院長。専門知識を活かして女性の快適ライフをサポートします。
※1 国立感染症研究所 トキソプラズマ症とは
※2 国立感染研究所「妊婦さんおよび妊娠を希望されている方へ」
※3 日本医療研究開発機構 成育疾患克服等総合研究事業「トキソプラズマ母子感染と出生児障害リスク」
※4 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン産科編2020」