市販の妊娠検査薬の感度が高まったことにより、「化学流産」という言葉が広まっています。そもそも知らなかった、言葉は聞いたことはあるけど詳しいことはわからないという人も多いかもしれません。
そこで今回は、化学流産について原因や症状、起こる時期、その後の生理への影響などについてご説明します。
化学流産とは?
化学流産とは、妊娠検査薬が陽性反応を示したものの、エコー検査で妊娠が確認できる前に流産した状態をいいます(※1)。
「化学流産」という言葉が一般的に使われていますが、医学用語としては「生化学的妊娠」と呼ばれます(※2)。
化学流産は、自分自身で妊娠検査薬を試して陽性反応が出たあとに産婦人科へ行き、エコー検査で赤ちゃんを包む「胎嚢」という袋が確認できないことにより判明するのが一般的です。
陽性反応後に生理のような出血がみられて気づくこともあります。
化学流産は決して珍しいことではなく、年齢が若く健康なカップルでも30〜40%の確率で起こるとされています(※3)。
一方で通常の「流産」は、一度エコー検査で胎嚢が確認できたあと、妊娠22週0日より前に「胎児(胎芽)が見られない」もしくは「心拍が認められない」場合に診断されるものです(※1,2)。
化学流産が起きる時期は?妊娠超初期?
化学流産は妊娠検査薬が陽性になる時期から、胎嚢が確認できる時期までの間に起こります。
通常の妊娠検査薬が正しい反応を示すのは生理予定日を1週間過ぎた妊娠5週以降です。「早期妊娠検査薬」を使用すると妊娠4週頃でも反応が出ることがあります。
一方、胎嚢は、妊娠5~6週以降であれば、ほぼ確実に確認することができます。
このちょうど妊娠4〜6週頃の時期に妊娠が中断してしまうと、「化学流産」となります。
化学流産で妊娠検査薬の陽性反応が出るのはなぜ?
妊娠検査薬は、受精卵の着床によって分泌され始める「hCGホルモン」の分泌が一定量を超えると陽性反応が出る、という仕組みです。
化学流産は、妊娠を継続できなかったものの、一度は着床しているので、hCGホルモンの分泌が始まっています。
着床していた期間が長いほどhCGホルモンの分泌量は増加しているため、妊娠検査薬の感度や使うタイミング次第では、陽性反応を示すことがあるのです。
化学流産の原因は?
妊娠12週頃までに起こる流産の原因は、赤ちゃんの染色体異常によるものがほとんどです(※1)。化学流産の原因も同じと考えられます。
妊婦さんが運動や仕事などをしたことが原因で流産が起こることはほぼなく、どんなに気をつけていても防ぐことは難しいです(※1)。
もし化学流産をしてしまっても、誰かのせいではありません。決して自分を責めないでくださいね。
化学流産の症状は?出血の量や期間は?
流産というと、強い腹痛や大量の出血などを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、化学流産の場合はそのような症状は現れません。
個人差はありますが、自覚症状がないか、普段の生理と同じくらいの量の出血が見られるくらいで、妊娠検査薬を試していなければ「遅れていた生理がようやく来た」と思う程度です。
化学流産が起きる前は、正常な妊娠と変わりないので、人によってはつわりなどの妊娠初期症状があらわれ始めることもあるようです。
生理予定日から1週間が過ぎていて、吐き気や嘔吐などの症状が見られる場合、妊娠検査薬を使うか産婦人科で検査を受けてくださいね。
化学流産後の生理や妊娠はどうなるの?
化学流産が判明しても特に治療の必要はなく、経過を観察します(※1)。
妊娠によってホルモンバランスが変わるため、一時的に基礎体温が乱れることはありますが、基本的に数ヶ月もすれば元の状態に戻ります。
一般的に、化学流産が起きた後も次の生理が来ます。そのため、化学流産の後しばらくして妊娠して、今度は無事に胎嚢が確認できることもあります。
もしなにか不安な点があれば、エコー検査を受けた産婦人科で医師に尋ねてみてくださいね。
化学流産を繰り返すことはあるの?
化学流産を何度か経験したという場合は、不妊症の原因の一つ「着床障害」を起こしている可能性も考えられます(※4)。
着床障害は、女性ホルモンを分泌する黄体がうまく機能しなくなることが原因で起こることが多いです(※4)。
また、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなど子宮の異常が原因になることもあります。
化学流産を繰り返すときは、早めに婦人科で検査を受けることをおすすめします。
化学流産について知っておこう
妊娠を強く希望していると、早期妊娠検査薬を使ったり、生理予定日から1週間が過ぎるのを待たずに通常の妊娠検査薬を使ったりすることもあるかもしれません。妊娠検査薬を早く使っても体に悪影響はありませんが、使うタイミングが早いと、陽性反応が出た後に化学流産と判明するケースもあることを覚えておきましょう。
化学流産についてよく知ったうえで、妊活をしていけるといいですね。
監修医師:産婦人科医 間瀬徳光
2005年 山梨医科大学(現 山梨大学)医学部卒。板橋中央総合病院、沖縄県立中部病院などを経て、現在は医療法人工藤医院院長。産婦人科専門医、周産期専門医として、産科・婦人科のいずれも幅広く診療を行っている。IBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)として、母乳育児のサポートにも力を注いでいる。
※1 日本産科婦人科学会「流産・切迫流産」
※2 株式会社メディックメディア『病気がみえるvol.10 産科 第4版』p.90,92
※3 日本産科婦人科学会「1. 生化学的妊娠(Biochemical pregnancy)の扱い方」
※4 株式会社メディックメディア『病気がみえるvol.9 婦人科・乳腺外科 第4版』p.34