「シャフリングベビー」という言葉の意味をご存知でしょうか? うちの娘は「シャフリングベビー」でした。
寝返りもハイハイもせず、おしりで移動することが得意だったわが娘。これはシャフリングベビーだった娘と私の成長記録です。
シャフリングベビーって?
シャフリングベビーとは、ハイハイせず、座ったまま移動しようとする赤ちゃんのこと。座ったまま進む子という意味で、「いざりっこ」という言い方もします。
シャフリングベビーには、こんな特徴があります(※1)。
シャフリングベビーの特徴
● 腹ばいの姿勢や寝返りを好まない
● 両脇を抱えて抱き上げたときや、その後に床に降ろそうとしたときに足を曲げたままで伸ばそうとしない
● 知能発達に問題はない
● あんよの開始は1歳半〜2歳くらい
● その後の発達は一般的なペースになることが多い
娘は、これらの特徴にほぼあてはまっていました。
次からは、シャフリングベビーだった娘がどんな成長をしたのか、振り返ってみたいと思います。
シャフリングベビーだった娘の記録 1
生後5ヶ月頃:寝返り、しないなぁ
「昨日、寝返りしたよ!」
「すごいね、うちはまだだよ」
なんて会話が増える時期。
うちの子は寝返りはもちろん、うつぶせの姿勢になるのが大っ嫌い。うつぶせの姿勢にすると不機嫌になって泣き出す子でした。
もともと生まれたときから頭が大きかった娘。乳幼児身体発育曲線では、94%が入るという帯に入らないくらいのビッグヘッドでした。
そんなこともあって、「頭が重いからうつぶせが嫌なんだな」程度に思っていたのがこの時期。
娘より2ヶ月早く生まれた仲良しのママ友の子も寝返りしていなかったこともあり、この頃はまだまだ気持ちに余裕があって、寝返りする日を待ち遠しく思っていました。
<写真について>
上の写真は、うつぶせの姿勢にして、機嫌が悪くなる前の一瞬の隙をついて撮ったもの。5秒後にはノックダウンです。
シャフリングベビーだった娘の記録 2
生後8ヶ月頃:あれ、ハイハイしないかも
「ハイハイするようになったから、目が離せなくて大変なんだよね〜」
と聞くことが増える時期。
「そうだよね〜」とか言いたいところですが、ハイハイはもちろん、まだ寝返りもしていません。うつ伏せも嫌いです。ずり這いも、もちろんしていません。
おすわりは生後7ヶ月頃できるようになり、時期としては平均的でした。
娘ができるのは、仰向けかおすわり。その場から動く手段は持っていません。
危ない場所から遠ざけておけばオッケー。「目が離せない」なんてこともありませんでした。
まわりの子はどんどん成長していく
ママ友は、母親教室や離乳食講習会で出会った月齢が近い子ばかり。
この時期になるとみんな、寝返りはマスター済み。ハイハイやつかまり立ちといった次のステップにどんどん進んでいます。
一緒に児童館に遊びに行くと、他の子は動きまわってママたちは大変そう。
うちの子はじっとしているので、私は側にいればいいだけ。
目に見えすぎる発達の違い。なんだかなぁ…。うちの子、大丈夫かなぁ…。
シャフリングベビーだった娘の記録 3
同じ月齢の子と一緒にいるのがつらい
周りの子に比べて娘はあまりにも動かないので、同じくらいの月齢の子と遊ぶのがだんだんつらくなってきました。
「寝返りもハイハイもしないんだよね…」
と相談すると、みんな優しい言葉をかけてくれます。
「寝返りするように練習してみたら?」
「ママが何でもやってあげるから、寝返りとかハイハイとかしなくても済んじゃうんじゃない?」
もっと練習しなきゃいけないのかなぁ、泣いてもうつ伏せさせ続けなきゃいけないのかなぁ、自分のやり方が悪いのかなぁ、過保護なのかなぁ…。
実家は頼れない環境で、夫と娘と3人の核家族。頼れるのはママ友。だけど、あまりに目に見える成長の差があって、なんだか苦しい。
他の発達は一般的な時期にできた
寝返り、ハイハイ以外の発達については一般的な時期にできました。
首すわりは生後3ヶ月頃、おすわりは生後7ヶ月頃。生後8ヶ月頃に「マンマ」「ママ」と、意味のありそうな言葉を発するようになりました。
シャフリングベビーだった娘の記録 4
9〜10ヶ月健診に行くのが億劫
私が住んでいた地域では、9〜10ヶ月健診は集団健診ではなく、個人で小児科に申し込む形でした。
母子手帳を見てみると、生後10ヶ月18日で健診を受けたと記されています。生後10ヶ月の終わり頃まで待てば、発達が追いつくのではないか、と期待していたのかもしれません。
健診の記録を振り返ると、医師からのアドバイス欄に「1〜2ヶ月の遅れがあります」と記されていました。
パラシュート反応のテストで引っかかったこともあり、健康検査の総合判定欄は「問題なし・あり・疑い」という選択肢のうち「疑い」に丸がついていて、「当院で経過観察」ということになっていました。
シャフリングベビーだった娘の記録 5
生後11ヶ月頃:おしりで移動をはじめました
寝返りもハイハイもしないまま過ごしていた生後11ヶ月頃。
気がつけば、おすわりの姿勢のまま、あぐらをかいた足を前後に動かして移動するようになりました。
「ハイハイした」「たっちした」とは違って、「おすわりの姿勢のまま移動する」というのは、予想外の行動。
想像もしていなかったので、はじめておしりで移動した日のことは全く記憶にありません。気がつけば、こうなっていました。
おしりはつけたまま、足だけを器用に動かして移動していきます。
フローリングもカーペットの上も、少し段差があってもおしりで移動できるんです。
ハイハイと違って両手が開くので、手で何かを持って移動することだってできちゃいます。
フローリングワイパーだってお手のもの。
なんでしょう、これは。うつ伏せが嫌いな娘なりに編み出した移動手段っぽいです。
シャフリングベビーかも?
ネットで調べてたどりついた…
出産も育児もはじめて。ましてや「赤ちゃん=ハイハイ」くらいに思っていたので、「シャフリングベビー」という言葉は知りませんでした。
ネットで検索して「うちの子、シャフリングベビーかも…」と知ったときには、今まで悩んできたことが解決したような気がして少しホッとしました。
シャフリングベビーだとわかってからは、「遺伝的要素もある」と知って親に聞いたり(うちの場合、身内にはいませんでした)、ネットで他のシャフリングベビーちゃんを探して体験談を読んだりして、情報を集めていました。
シャフリングベビーは二度見される
シャフリングベビーって、外の世界では目立つんです。
例えば、ショッピングモールで買い物をしたあとにキッズコーナーで遊ばせていると、ハイハイやあんよをしている赤ちゃんに混ざって、おしりで歩く子がいたら、どうしても目についてしまいます。
わかります。私もその立場だったら見ちゃうと思います。
でも、娘を見た人が「あの子変わってるね」と言っているのが聞こえるとつらかった。しょうがないことだけど、自分の子のことを何か言われるのって嫌なものです。
あら、そちらもシャフリングベビーちゃん?
この時期にいちばんありがたかったことは、友達が、別のシャフリングベビーちゃんを紹介してくれたこと。
はじめて我が子以外のシャフリングベビーに会いました。娘とその子はシャフリングの仕方が少し違う様子。その子によって、足の使い方が違うことを知りました。ハイハイもかわいいけど、おしりで歩く姿って、すごくかわいいんです。
シャフリングベビーという同じ発達や気持ちを共有できて、本当に救われました。
また、昔シャフリングベビーだったという、小学生の男の子にも出会いました。その男の子が公園で元気に遊んでいる姿を見ると、漠然とした不安も払拭され、希望が持てました。
シャフリングベビーだった娘の記録 6
1歳0ヶ月頃:ついに、寝返りができた!
1歳の誕生日。もちろん一升餅を背負ってもシャフリングで移動します。
1歳の誕生日を迎えるにあたって、心の中で神様にお願いしました。この子が寝返りしますように…と。
シャフリングをするようになって、移動できるようになったので、不安は少しだけ減りました。ハイハイはあきらめています。でも、寝返りはしてほしかった。
寝返りしないまま大人になる人っているんだろうか…。
寝返りしないギネス記録って何歳だろうか…。
うちの子は世界初の寝返りしない子なのではないか…。
さすがに1年も寝返りしないと、本気でこんな気持ちになるんです。
ちなみに寝返りができないので、寝ている最中に動きたくなったら上に行きます。足の力を使ってどんどん上に。横と下には行けません。
とうとう寝返りしないまま1歳の誕生日を迎えました。
寝返りしたのは1歳を過ぎて数日経ってから。待ちに待った寝返りでした。良かった!寝返りできた!
シャフリングベビーだった娘の記録 7
1歳1ヶ月頃:発達外来へ行く
9〜10ヶ月健診で「経過観察」となっていた娘。
その結果が区に連絡されたのでしょう。保健師さんが相談の場を設けてくれて、立つことが遅れているということから小児専門の神経科の受診をすすめられ、行くことになりました。
相変わらずおしり移動はしていますが、寝返りをして本能が目覚めたのか、つかまり立ち、つたい歩きをするようになった頃でした。
小児神経科では、問診のような形でさまざまな質問を受けました。
● 積み木は積めるか
● 絵本に興味は示すか
● お菓子を渡すと自分でパックを剥こうとするか
● ものを1列に並べたりするか
● 株式チャートや天気予報などを見るか
● 昼寝の周期と時間
● 血縁関係のある人でシャフリングベビーだった人はいたか
50個くらい質問を受けたかな。
結果的には、
「大きい動きには遅れがあるものの、それ以外の項目はむしろ進んでいる。問題なし!」
経過観察として1ヶ月後に再診するものの基本大丈夫とのこと。
はーーーー。良かった。
シャフリングベビーだった娘の記録 8
1歳3ヶ月頃:成長がどんどん加速
ここまでくると、もはや急かす気持ちもありません。待ちに待った寝返りをしてくれて、つかまり立ち、つたい歩きまでしてくれたら、もうあとはなるようになればいい。
一般的にはシャフリングベビーが歩き出すのは「1歳半〜2歳頃」と言われています。そのくらいになると覚悟していましたが、娘は1歳3ヶ月で歩き出しました。
ちょうど、私の姉の家に長期滞在しているときでした。娘より10歳上と5歳上のいとこがいて、子供たちが娘と遊んでくれていました。
自分の足の上に娘の足を乗せて、「いっちに、いっちに」と歩いたり、いとこ、娘、いとこの順で3人並んで手をつないで歩いてみたり。子供たちが娘と遊んでいるうちに、あっという間に歩けるようになりました。
いつもより刺激が多かったのかな。
シャフリングベビーの子がいる親の気持ち
赤ちゃんは、ハイハイをして、立っちして、あんよして、という発達をたどるものだと思っていました。
特に我が家は、夫婦どちらも新幹線で2時間以上かかるところに両親が住んでいて、気軽に頼ることはできない環境です。近くに住んでいるママ友だけが頼りになる存在でした。
同じくらいの子と比べて、早かったらなんだかうれしいし、遅いと少し不安になってしまう。
知らないうちに他の子と比べていたのかも
月齢が近い子ばかりがまわりにいて、成長を比べやすい環境にいた私は、他の子と比較する気持ちが強かったのかもしれません。
娘は発達が遅かったので、心配でした。
この経験を通して、「まわりと比べたこの子」ではなく、「この子なりの成長のスピードを見守っていこう」と思えるようになりました。
子供がもっと成長していくと、いろいろな能力の差や、成長の速い・遅いが出てくると思います。
でも、今後この子がゆっくりペースで成長しても、焦らない気がします。まわりと比較せず、人並みを求めず、マイペースな成長を見守りたいな。
この時期に気づかせてくれてありがとう、と今は思います。
シャフリングベビーちゃん、10歳になる
シャフリングベビーだった娘は、いま、10歳です。
「おしりで移動してたの、覚えてる?」と聞いても全く覚えてないそう。今は、ハイハイもできます。ころんころん寝返りもします。
シャフリングベビーだった頃に、言われてつらかったことの一つが「ハイハイしないと足腰が鍛えられない」という言葉でした。
ハイハイしてほしくてもしないので、そう言われたって、どうしようもありません。ただ不安になっただけ。
私の娘の場合、一度もハイハイをせずに歩き出したけど、足腰は丈夫です。運動会ではリレーの選手に選ばれています。
ハイハイしなくて足腰が鍛えられないなんてことは、私の経験上ありません。おしりで移動していたけれど、歩けるし、走ってもいます。
シャフリングベビーとひとくちに言っても、いろんな個性があり、いろんな成長を遂げます。
まわりと比べず、自分の子供の小さな成長をたくさん見つけて、一緒に成長していきたいと思っています。
参考文献
※1 大阪小児科医会 いざりっ子(シャフリングベビー)