不妊治療を進めるなかで、人工授精を検討する方もいると思います。ただ、言葉は聞いたことがあっても具体的にどのようなことを行うのかわからない方もいますよね。
今回は「人工授精」について、治療の流れや方法、費用などをご説明します。
人工授精(AIH・AID)とは?
人工授精とは、女性の排卵のタイミングに合わせて、洗浄した活発な精子を子宮に直接注入し、妊娠の確率を高める方法をいいます。
精子が子宮に到達する過程のみを人工的にサポートするもので、受精から着床までは自然妊娠と変わりません。
一般的には、不妊治療のはじめに行う「タイミング法」を何回か試しても妊娠の兆候がみられない場合に、次のステップとして人工授精に進むことが多いでしょう。
人工授精には大きく2種類あり、配偶者の精子で行うことを「配偶者間人工授精(AIH=artificial insemination with husband's semen)」と呼び、第三者から提供された精子で行うことを「非配偶者間人工授精(AID=artificial insemination with donor's semen)」と呼びます。
人工授精が行われるのはどんな場合?
人工授精は、精子が子宮まで到達しにくい場合に行われます。以下のように、検査により男性側に不妊の原因があることがわかっていたり、子宮頸管に疾患等がみられたりする場合に選択します(※1)。
人工授精が選択されるケース
● 原因不明の機能不全(タイミング法からのステップアップ)
● 精液に含まれる精子の数が少ない
● 精子の運動率が低い
● 性交渉でうまく勃起しない
● 性交渉で腟内にうまく射精できない
● 精液中に精子がみられない
● 子宮頸管粘液の状態により、精子が子宮内へ到達しにくい
精液中に精子が全く無い状態を「無精子症」といいます。この場合、手術やホルモン剤投与によって治療する方法に加え、精子バンクからの第三者の精子提供を受け、非配偶者間人工授精(AID)によって妊娠・出産をめざすことも選択肢の一つとしてあります。
人工授精の流れや方法は?
人工授精は、排卵前から準備を始めます。主な流れは以下の通りです。
1. 排卵の方法を検討(生理1~5日目頃)
排卵のタイミングに合わせて精子を注入する必要があるため、生理が来たら排卵の方法について検討します。
排卵の方法は女性の体の状況によって、自然の排卵に任せるか、排卵誘発剤を使用するかを決めます。
2. 排卵日を推測(生理10~12日目頃)
排卵日を正確に予測するため、超音波検査で卵胞の大きさや子宮内膜の厚さを測ったり、排卵検査薬で黄体形成ホルモン(LH)の分泌量を調べたりします。
排卵日を特定したあとは、人工授精の実施日・時間を決めます。
3. 人工授精当日(生理12~14日目=排卵日前日~当日)
人工授精を行う当日は、病院で男性の精液を採取、もしくは事前に自宅で採取した精液を病院に持参します。
精液中の雑菌によって女性が感染を起こすリスクを下げ、より運動率の高い精子を選んで授精させるため、精液を洗浄・濃縮します。成分を調整した精子を、細いカテーテルを使って女性の子宮内へ入れます。
4. 妊娠判定(生理28日目=生理開始予定日以降)
次の生理開始予定日を過ぎても生理が来ない場合は、妊娠で分泌されるhCGというホルモンを尿または血液検査で測ることで、妊娠判定を行います。
人工授精の妊娠率は?妊娠しなかった場合は?
人工授精を4周期以上行った際の妊娠率は、女性が40歳未満の場合は約20%、40歳以上の場合は約10〜15%というデータがあります(※2)。
妊娠率は年齢だけではなく卵子や精子の状態も関係するため、一概にはいえません。
ただ、人工授精を5周期以上行った場合の妊娠率はかなり低いため、3〜4周期ほど人工授精を行っても妊娠に至らなかった場合は、次のステップとして体外受精や顕微授精を提案されることもあります。
人工授精の費用は?保険は適用される?
人工授精は1回あたり約2~3万円の費用がかかりますが、保険が適用されるため、自己負担額はこの内の3割です。これに加えて、診察料などがかかることもあります。
人工授精にかかる費用は病院によっても異なるので、事前に確認してくださいね。
人工授精を受ける際はパートナーとよく相談を
人工授精を行う場合、夫婦でタイミングをあわせる必要があります。どのようなスケジュールで行うのか、何周期までトライするのかなど、パートナーと事前にしっかり話し合ったうえで臨めるといいですね。
監修医師:産婦人科医 間瀬徳光先生
2005年 山梨医科大学(現 山梨大学)医学部卒。板橋中央総合病院、沖縄県立中部病院などを経て、現在は医療法人工藤医院院長。産婦人科専門医、周産期専門医として、産科・婦人科のいずれも幅広く診療を行っている。IBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)として、母乳育児のサポートにも力を注いでいる。
※1 株式会社メディックメディア『病気がみえる Vol.9 婦人科・乳腺外科 第4版』p.249
※2 日本産科婦人科学会「10.人工授精」