妊活をはじめて、または妊娠が判明して、「子宮外妊娠(異所性妊娠)」という言葉を知った人も多いかもしれません。起こる頻度はどのくらいなのか、もし起きた場合はどんな治療が必要なのかなど、気になりますよね。
そこで今回は子宮外妊娠について、発症する確率や原因や、治療法などについてご説明します。
子宮外妊娠とは?
「子宮外妊娠」は正式には「異所性妊娠」といい、子宮内膜に着床するはずの受精卵が、何らかの理由で別の部分に着床して妊娠した状態のことです(※1)。子宮外妊娠が起こると、妊娠を継続することはできません。
正常妊娠であれば妊娠5週頃までに子宮内に胎嚢を確認できますが、妊娠5〜6週以降になっても胎嚢が認められない場合は、子宮外妊娠が疑われます(※2)。
子宮外妊娠が起きる確率は?
子宮外妊娠は、すべての妊娠のうち約1~2%の確率で起こります(※1,2)。この数字を見ると発症率は低いという印象を受けるかもしれませんが、誰でも起こりうる異常妊娠の一つです。
子宮外妊娠の約90%は、受精卵の通り道である卵管の膨らんだ入り口部分で起こります(※1)。
卵管は細い管のような形状をしているため、着床してしまうと破裂する危険があります。
子宮外妊娠の原因は?どんな人がなりやすいの?
子宮外妊娠の発生リスクを高める要因として、次のようなものがあげられます(※1,3)。
卵巣・卵管の手術を受けたことがある
卵巣や卵管の手術によって、卵管内部や周辺が癒着を起こすと、受精卵がうまく子宮まで運ばれず、子宮外妊娠が起きる可能性があります。
性感染症や子宮内膜症を発症したことがある
クラミジアなどの性感染症や、子宮内膜症などの病気で炎症が起こると、卵管内や周囲の癒着を引き起こす原因となります。
受精卵の輸送が妨げられ、子宮外妊娠の原因になることもあります。
人工妊娠中絶をしたことがある
中絶手術で子宮内に何らかの影響を与えたことによって、受精卵が子宮内膜に着床しづらくなり、子宮外妊娠するリスクが高まります。
また、子宮内避妊具(IUD)の使用により、子宮環境が変化してしまうことも子宮外妊娠のリスクの一つとされます。
体外受精など胚移植による妊娠である
体外受精・胚移植などの生殖補助医療(不妊治療)を行った場合は、子宮外妊娠が起こる頻度は約2~4%と、自然妊娠よりも起こりやすいことがわかっています(※3)。
また、生殖補助医療(不妊治療)による妊娠の場合、子宮内と子宮外の妊娠が同時に起こる「子宮内外同時妊娠」の確率が自然妊娠よりも高く、生殖補助医療で妊娠したケースの約0.15~1%前後を占めるとされます(※2)。
子宮外妊娠の治療法は?手術が必要?
子宮外妊娠に気づかないまま週数が進むと、お腹の中への大量出血や急激な下腹部痛などが起こり命の危険もあるため、早期発見して治療をすることが大切です(※3)。
治療は、症状の進行度合いや胎児の心拍の有無などによって、以下の方法があります(※2)。
手術
多くのケースで、手術が選択されます。手術の方法はいくつかあり、子宮外妊娠が起きている場所や症状の程度、妊娠する力(妊よう性)を残すかなどを考慮したうえで決めます。
薬での治療
「メトトレキサート」という薬を使って子宮内容物を取り除く方法です。
注射による投与のため手術療法に比べて体の負担が小さくなりますが、日本ではまだ子宮外妊娠に対して保険適応外のため、母体の全身状態が安定していること、胎児の心拍が確認できていないことなど、使用にあたってはいくつかの条件を満たす必要があります(※2)
待機療法
子宮外妊娠の着床部位が小さかったり、判明後に自然流産したりした場合は、そのまま自然に吸収されるのを待つ待機療法が行われます。
全身状態やホルモン値などいくつかの条件を満たす必要があります(※3,4)。
また、必ずしも自然に吸収されるわけではなく手術が必要になることもあるため、慎重な経過観察が必要となります。
子宮外妊娠の手術って?
子宮外妊娠の手術は、お腹に小さな孔を開けて内視鏡を挿入する「腹腔鏡下手術」、もしくは、お腹を切る「開腹手術」によって行われます。
手術時間が短い、傷口が小さいといった特徴がある腹腔鏡下手術が主流とされていますが、緊急度や病院によっては開腹手術が行われます。
さらに、切除方法には卵管を残すか残さないかで以下のような種類があります。
卵管温存手術
主に卵管膨大部で子宮外妊娠が起きた場合に、卵管は残して卵管内の絨毛などを取り除く手術です(※3)。
卵管をそのまま残すため、術後も次の妊娠を望むことができます。ただし、温存した卵管が手術後に癒着を起こしたり、その卵管にまた子宮外妊娠が起きたりするリスクが高まります。
また、受精卵の絨毛細胞が残ってしまう、異所性妊娠存続症が起こるおそれがあるため、医師とよく相談する必要があります(※1,3)。
卵管摘出手術
卵管を温存するリスクが高い場合や、すでに不妊治療を行っている場合などは、卵管ごと切除する手術が行われることもあります(※1)。
お腹の中で大量に出血していたり、卵管破裂を起こしていたりする緊急の場合も、卵管摘出手術を行います。
反対側の卵管が残っていれば、術後も次の妊娠を望むことができます。
子宮外妊娠の手術費用は?入院期間はどれくらい?
子宮外妊娠の手術にかかる費用は、手術・切除の方法や病院によって違いが大きいですが、平均して数十万円かかります。
手術費のみであれば、開腹手術で約14万円、腹腔鏡下手術の場合は約23万円前後になります(※5)。
さらに、入院期間中の食事代やベッド代が加算されると、全部で30~50万円程度かかることも。
ただし、健康保険が適用されれば自己負担は3割で済み、高額療養費制度の利用を申請することで自己負担額の一部は払い戻しを受けることができます。
マイナンバーカードを保険証として使っている場合は申請は不要で、自動的に高額医療費分が差し引かれます。
詳しくは、治療を受ける病院や加入している健康保険の窓口に問い合わせてみましょう。
子宮外妊娠の手術の入院期間は手術方法や症状によりますが、術後3~7日ほどが目安です。
退院後は、体調を見ながら少しずつ日常生活に戻りましょう。運動や仕事の再開については、医師とよく相談してください。
子宮外妊娠は早期発見で重症化を防ごう
子宮外妊娠に気づかないままでいると、お腹の中への大量出血や急激な下腹部痛といった重い症状があらわれるので、早期発見が重要です。
妊娠検査薬で陽性反応が出たら早めに病院を受診して、正常妊娠か子宮外妊娠か判断してもらってくださいね。
監修医師:産婦人科医 間瀬徳光
2005年 山梨医科大学(現 山梨大学)医学部卒。板橋中央総合病院、沖縄県立中部病院などを経て、現在は医療法人工藤医院院長。産婦人科専門医、周産期専門医として、産科・婦人科のいずれも幅広く診療を行っている。IBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)として、母乳育児のサポートにも力を注いでいる。
※1 メジカルビュー社『プリンシプル 産科婦人科学2 産科編』pp.300-310
※2 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン 産科編2020」
※3 株式会社メディックメディア『病気がみえるvol.10 産科 第4版』pp.98-103
※4 日本産科婦人科学会雑誌 59巻11号「5)子宮外妊娠・頸管妊娠」
※5 今日の臨床サポート「K912 異所性妊娠手術」