乳腺炎は、授乳中のママの心配事の一つ。乳腺炎になると、おっぱいが腫れたり、しこりができて痛くなったり、ひどいと高熱まででてしまうことも。できることなら、痛い思いをせずに授乳を続けたいですよね。
そこで今回は、乳腺炎について詳しい症状や原因、予防法や対処法をご紹介します。
乳腺炎とは?原因は?
乳腺炎とは、母乳を作る「乳腺」が炎症を起こしてしまうことをいいます。授乳をしているママの約2〜33%が乳腺炎になると言われています(※1)。
乳腺炎には大きく分けて「うっ滞性乳腺炎」と「化膿性乳腺炎」の2種類があります。
「うっ滞性乳腺炎」は乳腺に母乳が溜まり続けることで炎症を起こした状態です。一方「化膿性乳腺炎」は、乳腺に細菌が入ったり、うっ滞性乳腺炎が悪化したりすることで引き起こされます(※1)。
うっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎は、主に次のようなことが原因となります。
うっ滞性乳腺炎の主な原因
- 赤ちゃんの母乳の飲み方が偏っていて、バランスが悪い
- 授乳間隔にばらつきがあったり、母乳の飲み残しがある
- 授乳回数が少ない
- きついブラジャーや姿勢の悪さなどにより、胸部を圧迫している
- ママのストレスや疲労
- 母乳分泌過多
化膿性乳腺炎の主な原因
- 乳首や乳輪の小さな傷から細菌が入る
- うっ滞性乳腺炎の悪化
食事が乳腺炎の原因になると聞いたことがあるママもいるかもしれませんが、食事と乳腺炎の関係性については、はっきりとした根拠がありません(※1)。主食、副菜、主菜を取り入れ、バランスのいい食生活を送ってくださいね。
乳腺炎の症状とは?
乳腺炎は授乳中であればいつでも起こる可能性がありますが、特に産後2〜3週間目に最も起こりやすく、大多数は6週間以内に起きています(※1)。
うっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎の症状には、以下のような違いがあります(※2)。
うっ滞性乳腺炎 | 化膿性乳腺炎 | |
時期 | 授乳中はいつでも起こる 特に母乳が溜まったときに急速に起こる |
通常産後10日以降に突然起こる |
腫れ | 乳房全体が腫れる | 感染を起こしている部分が赤く腫れる わきの下のリンパ節が腫れることもある |
しこり | 溜まった部分が硬くなる | 感染が進むと硬いしこりができる |
痛み | 軽度。乳房のしこりを押すと痛むこともある | 授乳できないほどの激しい痛み |
発熱 | 38.4℃以下 | 38.5℃以上 |
その他 | 気分が悪くなることがある | 全身の寒気や震え、倦怠感がある |
最初はおっぱいに痛みを伴うしこりができるのが特徴です。悪化したり細菌感染を起こしたりするとおっぱいがパンパンに張って硬くなることや、38.5℃以上の発熱などの症状があらわれることも。
乳腺炎を引き起こさないためには、どのように予防したらいいのでしょうか。次から、乳腺炎の予防法をご紹介します。
乳腺炎の予防法1. 授乳の方法を工夫する
- 授乳時の抱き方を変える
- 左右交互にまんべんなく授乳する
乳腺は乳首を中心に放射状に広がっているため、片方だけや同じ抱き方で授乳していると乳腺の一部に母乳が残ったままになり、詰まりやすくなってしまいます。
オーソドックスな横抱き、赤ちゃんと正面に向い合って授乳する縦抱き、ラグビーのボールを抱えるような姿勢のフットボール抱きなど、1日の授乳のうち1~2回は方向を変えて授乳すると、すべての乳腺の通りがよくなりますよ。
また、左右交互に同じ量の母乳を赤ちゃんに与えるのも大切です。両方のおっぱいの母乳をバランスよく維持できます。
乳腺炎の予防法2. 胸を圧迫しないようにする
- ブラジャーは締め付けが強くないものをつける
- 寝るときは意識して上を向く
胸をしめつけて圧迫していると、おっぱいの循環が悪くなって母乳が乳腺に溜まり、乳腺炎になりやすくなります。
妊娠前に使っていた下着では、母乳で張った胸が圧迫されてしまうことも。産後すぐから妊娠前に使っていた下着に戻すことは避け、授乳用のブラジャーをつけるようにしましょう。
また、横向きに寝ると下になる方のおっぱいの乳腺を圧迫してしまうため、寝ている間に乳腺炎になってしまうこともあります。意識して上を向いて寝るようにしたり、バランス良く向きを変えて寝るようにしましょう。
乳腺炎の予防法3. バランスの良い食事・水分を摂る
- バランスの取れた食事を心がける
- 水分不足に気をつける
乳腺炎を予防するために、食事を制限したり水分を過剰摂取する必要はありません。特定の食べ物が乳腺炎を引き起こすという医学的根拠はなく、日本助産師会なども乳製品や脂肪などの制限を勧めないことを提案しています(※1)。
ママの健康のためにも偏った食事や過剰摂取は避け、バランスのとれた食事を心がけた方が良いでしょう。水分不足にならないよう適量飲むことも意識してくださいね。
乳腺炎の予防方法4.休息をとる
- 赤ちゃんが寝ているときにママも一緒に昼寝などをする
- パートナーや家族と協力して体を休ませる時間をつくる
乳腺炎を引き起こす要因として、ママのストレスや疲労があげられます(※1)。育児中は昼夜問わず頻繁に授乳をするため、まとまった睡眠時間がとれなかったり、慣れない育児でストレスや疲労が知らず知らずのうちに蓄積していることも。
パートナーや家族と協力しつつ、地域のサポートなども活用してできるだけ休む時間を作りましょう。ただし、授乳間隔が空きすぎると乳腺炎を引き起こしやすくなるので、授乳や搾乳は続けてくださいね。
乳腺炎になってしまったときの対処法は?
予防をしていたとしても、乳腺炎になってしまうこともあります。すでにおっぱいが岩のようにがちがちになって絞れない、高熱が出てしまったという場合には、早めに病院で見てもらってくださいね。
乳腺炎の初期症状があらわれた場合は、次のような対処を行いましょう。
母乳の詰まりを解消する
しこりが痛むといった軽めの症状の場合は、まずは母乳を出して詰まりを解消しましょう。
しこりのある部分を軽くマッサージして、詰まった母乳の流れを促します。おっぱい全体を動かすようにマッサージすると、さらに母乳が作られようとして乳腺炎を悪化させる場合があるので注意してくださいね。
マッサージで母乳の流れを促したあとは、赤ちゃんに飲ませたり搾乳したりしましょう。
授乳後は母乳を出し切る
授乳後は、母乳をしっかり出し切ることが大切です。このとき、搾乳器を使うと詰まっていない乳腺ばかりから母乳が出てしまうので、手絞りの方が効果的ですよ。
おっぱいを冷やす
おっぱいが熱を持って張っている場合は、温めずに濡れタオルや冷却ジェルシートを使って冷やしましょう。
乳頭をきれいにする
細菌に感染して化膿性乳腺炎にならないように、授乳後は乳頭や乳輪をきれいに拭いて、清潔にしましょう。
乳腺炎対策をして、授乳を楽しく
乳腺炎がひどくなると、授乳をし続けるのはとても大変です。そのため、乳腺炎になる前に、セルフケアをしてしっかり予防することが大切ですよ。
もしも乳腺炎の症状が現れた場合は、早めに対処して症状の悪化を防ぎましょう。乳腺炎でおっぱいが痛いと授乳をやめたくなってしまうかもしれませんが、今回ご紹介した対処法を実践してみてくださいね。
専門家のケアを受けることも大切なので、おっぱいに違和感があったり、気になる点があったらすぐに病院や助産院に相談しましょう。
監修医師:産婦人科医 藤東 淳也
日本産科婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医、細胞診専門医、がん治療認定医、日本がん治療認定医機構暫定教育医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医で、現在は藤東クリニック院長。専門知識を活かして女性の快適ライフをサポートします。
※1 日本助産師会 『乳腺炎ケアガイドライン2020 第2版』
※2 医学書感『母乳育児支援スタンダード 第2版』p.276