赤ちゃんも貧血になる可能性があることをご存知ですか。赤ちゃんは貧血になっても症状があらわれない場合が多く、なかなか気づかれないケースもあります。
そこで今回は、赤ちゃんが貧血になる原因や貧血の見分け方、治療法などについてご説明します。
貧血とは?
貧血とは、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンという色素が正常よりも低下した状態のことです(※1)。
貧血は原因によっていくつかの種類に分けられますが、赤ちゃんに最も起きやすいのは「鉄欠乏性貧血」です。
体全体に酸素を運ぶ手助けをするヘモグロビンには鉄が必要不可欠になっています。
体内の鉄が少なくなるとヘモグロビンも減って酸素を運ぶ力が弱まり、疲労や頭痛、息切れなどの症状があらわれることがあります(※1)。
赤ちゃんの貧血の原因は?
赤ちゃんが鉄欠乏性貧血になるのには、主に以下の3つの原因が考えられます。
生まれたときの体内の鉄が不足している
赤ちゃんはママのお腹の中にいるときに、へその緒を通じて鉄をもらっているため、体の中に鉄を蓄えた状態で生まれてきます(※2)。
しかし、早産や双子などの多胎児として生まれた赤ちゃんは、ママからもらう鉄の量が十分ではないため、生まれてから早い段階で体内の鉄が不足して鉄欠乏性貧血になることがあります。
摂取する鉄の量が少ない
赤ちゃんの成長は著しいので、生後半年頃までにママからもらった鉄を使い尽くしてしまいます。そのため、それ以降は鉄を摂取しないと貧血になってしまいます。
母乳には鉄があまり含まれていません(※2)。そのため、母乳のみで育っている赤ちゃんや離乳食の進みが遅く母乳を飲んでいる期間が長い赤ちゃんは、鉄欠乏性貧血になりやすい傾向があります。
市販の粉ミルクには鉄が加えられていることが多いので、ミルクで育った赤ちゃんのほうが鉄欠乏性貧血になりにくいとされています。
病気で消耗している
消化性潰瘍や横隔膜ヘルニア、ポリープ、血管腫や他の慢性的な炎症など、赤ちゃんの病気によって体のどこかで出血や炎症が起きていると鉄が消費されて貧血が起こることがあります。
赤ちゃんの貧血の症状って?気づく方法は?
赤ちゃんの鉄欠乏性貧血の多くは、特に目立った症状はあらわれません。大人が貧血のときには顔色が悪いなどの症状が見られますが、赤ちゃんにはそのような症状がないことがほとんどです。
そのため、発熱などで病院へ行き、血液検査を行ったときに初めて貧血だとわかるケースが多いとされていて、ママやパパが気づくことは難しいです。
ただし稀に、大泣きしたあとにひきつけを起こす「泣き入りひきつけ」を起こすこともあります(※3,4)。泣き入りひきつけは、なかなか泣き止まないということもきっかけになります。
赤ちゃんの貧血は検査の数値でわかる?
赤ちゃんが貧血かどうか見分けるには、血液検査を行ってヘモグロビンの数値を確認します。
赤ちゃんの場合、ヘモグロビンの数値が11.0g/dL以下であれば貧血と見なすことになっています(※5)。
他にも、赤ちゃんが貧血を起こしやすい月齢か、母乳を与えている期間、離乳食への移行具合なども貧血かどうかを見分ける判断材料になります。
赤ちゃんの貧血の治療法は?
赤ちゃんが鉄欠乏性貧血になったときの代表的な治療法としては、鉄剤の投与と食事内容の見直しがあります(※3)。
鉄剤の投与
シロップの鉄剤を1日2〜3回に分けて与えます(※3)。鉄剤を服用すると、一般的に数週間で症状が改善していきます。
ただし、ヘモグロビンの数値が正常に戻っても、まだ体内に鉄が十分に蓄えられていないので、少なくとも8週間ほどは投与を続けることになります(※3)。
生後6ヶ月以降に鉄欠乏性貧血と診断された赤ちゃんは、鉄剤を投与している間に離乳食が進んで食事から鉄が摂取できるようになることもあるため、途中で鉄剤の投与を中止するケースもあります。
赤ちゃんが誤って必要量以上の鉄剤を飲んでしまうと急性鉄中毒になってしまうため、自宅で鉄剤を保管するときは赤ちゃんの手の届かないところに置くようにしてください。
食事内容の見直し
鉄を多く含む食材を積極的に食べさせることも重要です。離乳食が順調に進んでいる赤ちゃんには、次に紹介するような食べ物を取り入れるといいでしょう。
ただし、初めての食材を与えるときはアレルギー反応があらわれる可能性があるため、1日1口からはじめて、様子を見ながら量を増やすようにしてくださいね。
・赤身の肉や魚
・レバー
・卵
・大豆
・豆腐
・ほうれん草
・海藻 など
一般に、動物性食品に含まれる鉄(ヘム鉄)のほうが、植物性食品に含まれる鉄(非ヘム鉄)よりも吸収性が高い傾向があります。
離乳食開始前の赤ちゃんで母乳のみを飲んでいる場合は、鉄が加えられた粉ミルクを与えるといいでしょう。
赤ちゃんの貧血には要注意
赤ちゃんが貧血になりやすいのは、生後半年を過ぎた頃です。そのため、この時期になったら、鉄が豊富に含まれている食品を離乳食に使ったり、母乳だけでなく粉ミルクを与えたりして、日頃の食事や授乳の中で鉄を補うように心がけましょう。
なお、早産で生まれると新生児期に貧血になる赤ちゃんもいますが、鉄剤を与えることがガイドラインで定められているので安心してくださいね(※6)。
監修医師:小児科 武井 智昭
日本小児科学会専門医。2002年、慶応義塾大学医学部卒。神奈川県内の病院・クリニックで小児科医としての経験を積み、現在は神奈川県大和市の高座渋谷つばさクリニックに院長として勤務。内科・小児科・アレルギー科を担当しています。感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として診療を行っています。
※1 厚生労働省「貧血の予防には、まずは普段の食生活を見直そう」
※2 株式会社メディックメディア『病気がみえるvol.10 産科 第4版』p.195,370
※3 日本内科学会雑誌第99巻第6号「鉄代謝の臨床 鉄欠乏と鉄過剰:診断と治療の進歩」p.35
※4 日本小児神経学会 小児神経Q&A「Q7:泣き入りひきつけの対処法を教えてください。」
※5 World Health Organization “WHO methods and data sources for mean haemoglobin and anaemia estimates in women of reproductive age and pre-school age children 2000-2019” p.4
※6 日本新生児成育医学会「新生児に対する鉄剤投与のガイドライン2017」